韓国のITサービス企業Kolon Benit社が「自律製造(Autonomous Manufacturing)」を推進し、無人工場の実現を加速させていると報じられました。本稿ではこの動きを参考に、「自律製造」の概念を整理し、日本の製造業がそこから何を学び、実務にどう活かしていくべきかを考察します。
はじめに:韓国で加速する「自律製造」への取り組み
韓国のITサービス・ソリューション企業であるKolon Benit社が、製造業のデジタル変革(DX)の一環として「自律製造」を強化し、将来的な「無人工場」の構築を目指す動きを見せています。これは、韓国国内だけでなく、グローバルな製造業の潮流を示す一つの事例として注目に値します。単なる自動化の延長線上ではない「自律化」というキーワードは、日本の製造現場にとっても重要な意味を持っています。
「自動化」と「自律化」の違いとは
まず、言葉の定義を整理することが重要です。「自動化(Automation)」は、あらかじめ定められたルールやプログラムに基づき、機械やシステムが特定の作業を繰り返し実行することです。多くの工場で導入されている産業用ロボットや自動組立装置などがこれにあたります。
一方、「自律化(Autonomy)」は、AIやIoTといった技術を活用し、システム自体がリアルタイムでデータを収集・分析し、状況を自己判断して最適なアクションを決定・実行する状態を指します。つまり、決められたことを行うだけでなく、予期せぬ変化や変動に対して、人間を介さずに自ら対応し、プロセス全体を最適化していく能力を持つのが「自律製造」です。例えば、設備の稼働データから故障の予兆を検知して自ら稼働パラメータを調整したり、受注状況の変化に応じて生産計画や部品の搬送ルートをリアルタイムで最適化したりといった動きが想定されます。
無人工場実現へのロードマップ
「自律製造」は、しばしば究極の目標として語られる「無人工場」を実現するための基盤技術と位置づけられます。しかし、現実的には、一夜にしてすべての工程が無人化・自律化されるわけではありません。Kolon社の取り組みも、段階的なアプローチを取っていると推察されます。
一般的に、まずは特定のラインや工程で自律化の仕組みを導入し、効果を検証します。例えば、品質検査工程にAI画像認識を導入して不良品の判定とフィードバックを自律化する、あるいはAGV(無人搬送車)がMES(製造実行システム)と連携し、生産の進捗に応じて自律的に搬送指示を出す、といった形です。こうしたスモールスタートで知見とデータを蓄積し、対象範囲を徐々に広げていくのが現実的なロードマップと言えるでしょう。これは、日本の製造現場で改善活動を積み重ねていくアプローチと親和性が高い考え方です。
なぜ今、自律製造が求められるのか
このような動きの背景には、製造業が直面する共通の課題があります。深刻化する労働人口の減少、熟練技術者の引退による技能伝承の断絶、そしてグローバルでの厳しいコスト競争や、多品種少量生産、短納期への対応といった市場の要求の変化です。
これらの課題に対し、従来の省人化や効率化だけでは対応が追いつかなくなりつつあります。生産プロセス全体が、まるで生き物のように環境変化へ柔軟かつ迅速に対応できる「自律性」を持つこと。それこそが、持続的な競争力を維持するための鍵になると考えられているのです。
日本の製造業への示唆
今回のKolon Benit社の事例は、日本の製造業にとっても多くの示唆を与えてくれます。以下に要点を整理します。
1. 「自動化」の先にある「自律化」という視点
これまで進めてきた自動化をさらに一歩進め、収集したデータを活用してシステムが自己判断する「自律化」を目指すという視点が重要です。これは、単なるコスト削減や効率化に留まらず、品質の安定、変化への対応力といった、ものづくりの本質的な価値を高めることに繋がります。
2. データ活用のための基盤整備
自律化の根幹は、信頼性の高いデータをリアルタイムに収集・分析できる基盤です。工場内の設備からどのようなデータが取得できるのか、それらをどのように統合・可視化するのか。IoTセンサーの導入や、MES、PLCといった既存システムとの連携など、自社のデータインフラを改めて見直し、整備することが第一歩となります。
3. 人の役割の再定義と人材育成
自律化が進むと、現場の従業員の役割は、手作業や定型的な機械操作から、システムの監視、データ分析、プロセスの改善提案、そして予期せぬトラブルへの高度な対応へと変化していきます。こうした変化を見据え、従業員のリスキリングやデジタル人材の育成に計画的に取り組むことが、経営の重要な課題となります。
4. 現実的な課題解決からのアプローチ
「無人工場」という言葉に踊らされるのではなく、自社の生産現場における具体的な課題、例えば品質のばらつきが大きい工程、頻繁に段取り替えが発生するライン、熟練者の経験に頼っている作業など、解決すべきテーマを明確にすることが肝要です。その課題解決の手段として、自律化の技術をどう適用できるかを検討する、という地に足の着いたアプローチが成功の鍵を握ります。


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