米国の木材関税から学ぶ、保護主義がサプライチェーンに与える光と影

global

米国の木材産業では、カナダ産木材への関税が一部の製材所に活況をもたらす一方、サプライチェーン全体には深刻な不確実性をもたらしています。この事例は、グローバルな調達環境の変化に直面する日本の製造業にとっても、示唆に富むケーススタディと言えるでしょう。

はじめに:米国の木材関税を巡る状況

昨今のグローバル経済は、地政学的な緊張や各国の保護主義的な政策により、その不確実性を増しています。米国で議論されているカナダ産針葉樹材への相殺関税は、その典型的な事例です。この政策は、歴史的に安価なカナダ産木材から国内の製材業者を保護することを目的としていますが、その影響は業界内で一様ではありません。ある製材所にとっては追い風となりながらも、木材を利用する他の多くの事業者やサプライチェーン全体には、深刻な課題を突きつけています。

ある製材所にもたらされた「好況」

元記事で紹介されているメイン州の製材所は、関税政策の恩恵を直接受けている一例です。輸入品との価格競争が緩和されたことで、同社は安定した事業運営と積極的な設備投資が可能になりました。これは、国内の生産基盤を維持し、雇用を守るという政策の意図が、少なくともミクロの視点では機能していることを示しています。日本の製造業においても、特定の製品分野で輸入規制や関税による保護が国内メーカーの支えとなるケースは存在します。国内生産能力の維持という観点からは、こうした政策には一定の合理性があると言えるでしょう。

サプライチェーン全体に広がる「不確実性」

しかし、視点をサプライチェーン全体に広げると、様相は一変します。木材を原材料として使用する建設業や家具製造業などにとって、関税は直接的なコスト増に繋がります。原材料価格の上昇は製品価格に転嫁せざるを得ず、最終的には消費者の負担となります。価格転嫁が難しい場合は、企業の収益性を著しく圧迫することになります。
さらに深刻なのは、価格の乱高下や供給の不安定化がもたらす「不確実性」です。将来の調達コストや供給量が予測しにくくなることで、生産計画や事業計画の策定が極めて困難になります。これは、安定した操業と計画的な投資を重視する製造業の現場にとって、最も避けたい事態と言えます。昨今の日本国内における「ウッドショック」や鋼材価格の高騰を経験した方々にとっては、身につまされる話ではないでしょうか。

保護主義がもたらすトレードオフ

この米国の事例が示すのは、保護主義的な政策が必然的にもたらすトレードオフの構造です。国内の特定産業を保護しようとすれば、それは別の産業のコストとなり、サプライチェーン全体の効率性を損なう可能性があります。短期的に一部の企業を守ることが、長期的に見て国全体の産業競争力を削ぐことにも繋がりかねません。
経営の視点からは、こうした外部環境の変化をコントロールすることは困難です。重要なのは、このような動きが常態化しつつあることを認識し、自社の事業がいかに影響を受けるかを冷静に分析し、対応策を講じておくことでしょう。

日本の製造業への示唆

この米国の木材産業の事例は、日本の製造業に携わる我々にいくつかの重要な示唆を与えてくれます。

1. 調達戦略の再評価と多様化
特定の国や地域からの原材料・部品の調達に過度に依存するリスクを再認識すべきです。安定供給とコストの観点から、調達先の複数化(マルチソーシング)や、国内調達への回帰、代替材料の検討などを、平時から進めておくことが重要になります。

2. サプライチェーン全体の可視化
自社の直接の取引先(Tier1)だけでなく、その先のサプライヤー(Tier2, Tier3)まで含めたサプライチェーン全体のリスクを把握する努力が求められます。地政学的なリスクや各国の政策変更が、サプライチェーンのどこに、どのような影響を及ぼすかを可視化し、シミュレーションしておくことが、有事の際の迅速な対応に繋がります。

3. コスト構造の把握と価格交渉力
原材料価格の変動は、もはや例外的な事象ではありません。自社の製品における材料費の割合を正確に把握し、コスト上昇分を適切に製品価格へ転嫁するための論理的な根拠を準備しておく必要があります。顧客との丁寧な対話と交渉を通じ、サプライチェーン全体でコストを分担する理解を醸成していく姿勢が不可欠です。

4. 政策動向の継続的な注視
関税、補助金、輸出入規制といった各国の政策は、事業環境を大きく左右します。自社の事業に関連する国内外の政策動向を継続的に監視し、事業計画やリスク管理に反映させる情報収集体制を強化することが、不確実性の高い時代を乗り切る上で欠かせない要素となります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました