世界的なサプライチェーンの混乱が続く中、設備の補修部品調達は多くの製造現場で喫緊の課題となっています。米国の産業用ギア修理専門企業の事例をもとに、OEM供給に依存しない新たな設備保守のあり方と、その実務的な意味合いを考察します。
背景:長期化する補修部品の調達リスク
コロナ禍以降、世界的なサプライチェーンの混乱は依然として続いており、製造現場における設備保守のあり方に大きな影響を及ぼしています。特に、海外製の設備や長年稼働している旧式設備の補修部品は、リードタイムの長期化、価格の高騰、さらには供給停止といった問題に直面するケースが増えています。こうした状況は、設備の突発的な故障に対する迅速な対応を困難にし、工場の安定稼働を脅かす深刻なリスクとなっています。
米国の事例:修理・再生産という解決策
このような課題に対し、米国のNational Gear Repair社という産業用ギアの修理・再生産を専門とする企業が注目されています。同社は、OEM(純正部品メーカー)からの部品供給が滞る中、顧客企業に対してギアの修理や、現物をもとにした再生産サービスを提供しています。特筆すべきは、直径20フィート(約6メートル)にも及ぶ大型ギアの製造能力を持ち、新品のOEM部品と比較して最大60%ものコスト削減を実現している点です。
この取り組みの背景には、図面が存在しない部品であっても、現物を3次元測定・分析し、材料や熱処理の条件を特定して同等品を製造する「リバースエンジニアリング」の技術力があります。これは、単なる修理の範疇を超え、サプライヤーが廃業したりサポートが終了したりした部品(いわゆるEOL品:End of Life)であっても、設備を延命させるための有効な手段となり得ることを示しています。
日本の製造現場における意味合い
この米国の事例は、日本の製造現場にとっても示唆に富んでいます。日本の工場でも、高度成長期に導入された設備の老朽化や、海外メーカー製設備の保守部品調達は、多くの技術者や工場長が頭を悩ませる共通の課題です。従来、メーカーの保守サービスに依存するか、自社で図面を保管し協力工場へ製作を依頼するといった対応が一般的でした。
しかし、メーカーサポートが終了していたり、図面が紛失していたりするケースは少なくありません。特にギアのような複雑な形状と高い精度が求められる部品の場合、内製や適切な外注先の探索は極めて困難です。今回の事例は、こうした「補修部品の調達難」という課題に対し、修理やリバースエンジニアリングを専門とする外部パートナーとの連携が、現実的かつ効果的な解決策の一つとなり得ることを教えてくれます。
日本の製造業への示唆
今回の事例から、日本の製造業が今後の設備保守戦略を考える上で、以下の点を実務的な示唆として捉えることができるでしょう。
1. 保守部品調達戦略の多角化
サプライチェーンの不確実性が常態化する現代において、OEMからの供給のみに依存する体制は脆弱です。代替調達先のリストアップはもちろんのこと、修理やリバースエンジニアリングによる再生産といった選択肢を、平時から事業継続計画(BCP)の一環として検討しておくことが重要となります。
2. リバースエンジニアリング技術の活用
図面のない古い部品や海外製部品であっても、現物から再生する技術は、重要設備の寿命を大幅に延ばす可能性を秘めています。国内にも同様の技術を持つ専門企業は存在するため、自社の重要設備の保守計画にこうした選択肢を組み込むことで、より強靭な生産体制を構築できます。
3. LCC(ライフサイクルコスト)での判断
新品のOEM部品は高価な場合が多いですが、修理や再生産による代替品は、初期コストを大幅に削減できる可能性があります。単なる部品価格だけでなく、設備のダウンタイム短縮や延命効果といった長期的な視点、すなわちライフサイクルコスト全体で最適な保守方法を判断する経営的な視点が求められます。
設備の安定稼働は、製造業の競争力の源泉です。不確実性の高い時代を乗り切るため、外部の専門技術を戦略的に活用し、より柔軟で強靭な保守体制を構築していくことが、今後の工場運営において一層重要になるでしょう。


コメント