ケニアの農産物生産会社で「生産管理副責任者」の求人が出ていました。一見遠い国の話に見えますが、その職務内容からは、グローバルな生産拠点を運営する上で普遍的に求められる管理者の役割と課題が見えてきます。本稿ではこの事例を基に、日本の製造業が海外展開を進める上でのヒントを探ります。
はじめに:海外の求人情報という「窓」
先日、アフリカ・ケニアの大手農産物生産・輸出会社「AAA Growers」が、「生産管理副責任者(Deputy Shift Production Manager)」を募集している情報が目に留まりました。このような海外、特に新興国における現場管理者の求人情報は、現地の生産活動の実態や、そこで求められる人材要件を垣間見ることができる貴重な情報源です。日本の製造業とは業種も国も異なりますが、工場運営という共通のテーマから、我々が学ぶべき点は少なくありません。
職務内容から読み解く「生産管理副責任者」の役割
この種の役職に一般的に求められる職務は、日本の工場の係長や課長クラスの業務と本質的には同じです。具体的には、担当するシフトにおける生産活動全般の管理責任を負うことになります。その内容は、主に以下の項目に大別できると考えられます。
1. 生産計画の実行と進捗管理:
日々の生産目標を達成するため、人員、原材料、設備の最適な割り当てを行います。特にシフト制勤務では、前のシフトからの生産状況や申し送り事項を正確に引き継ぎ、円滑に生産を継続させることが極めて重要です。計画通りに進まない場合のリカバリープランを迅速に立案・実行する判断力も問われます。
2. 品質・歩留まりの管理:
定められた品質基準を遵守し、安定した品質の製品を製造する体制を維持します。特に農産物加工のような業種では、天候に左右される原材料の品質のばらつきにいかに対応するかが腕の見せ所です。工程内での不良発生を最小限に抑え、歩留まりを向上させるための継続的な改善活動を主導する役割も担います。
3. 人員管理と現場指導:
シフトで働く従業員の勤怠管理、作業指示、安全指導、そしてスキルアップのための教育は、現場管理者の重要な責務です。特に海外拠点においては、現地の文化や労働慣行を深く理解し、尊重した上で、根気強くコミュニケーションを取りながらチームをまとめ上げるリーダーシップが不可欠となります。
4. 安全衛生と設備保全:
従業員が安全に働ける職場環境を維持することは、生産活動の大前提です。危険箇所の特定と対策、安全ルールの徹底、そして使用する生産設備の日常的な点検や簡単なメンテナンスも、現場管理者の監督下で行われます。設備の突発的な故障に迅速に対応する能力も求められるでしょう。
日本の製造業の視点からの考察
これらの職務内容は、日本の製造現場で日々行われていることと何ら変わりません。しかし、その舞台がケニアのような国になると、日本国内では想定しにくい特有の課題が加わります。日本の製造業が海外拠点を運営する際には、こうした現地の事情を深く理解し、マネジメント手法を適応させていく必要があります。
例えば、電力や水、物流といった社会インフラが不安定な場合、生産計画にそのリスクを織り込み、不測の事態に備えた代替策を準備しておかなければなりません。また、従業員のスキルレベルや労働に対する価値観が日本とは異なることを前提に、より丁寧な教育プログラムや、動機付けを高めるための工夫が求められます。日本の「当たり前」が通用しない環境で、いかにして安定した生産体制を構築するか。そこには、技術力だけでなく、現地の状況に合わせた柔軟な応用力と、異文化を理解し受け入れる姿勢が不可欠です。
日本の製造業への示唆
今回の求人事例から、日本の製造業がグローバルな競争環境で勝ち抜くための要点を改めて整理することができます。
1. グローバル人材の要件定義:
海外拠点の管理者には、生産管理の専門知識に加えて、異文化コミュニケーション能力、予期せぬ問題に対する解決能力、そして現地の事情に柔軟に対応する力が求められます。こうした能力は、座学だけでなく、実践の中でこそ培われます。将来の海外拠点幹部候補を、計画的に育成していく視点が重要です。
2. 生産方式の「現地化」:
日本の製造業が誇る生産方式や品質管理手法は、世界的に見ても非常に高いレベルにあります。しかし、それをそのまま海外拠点に持ち込むだけでは、期待した成果は得られません。現地のインフラ、人材、文化に合わせて、その手法を「翻訳」し、根付かせる地道な努力が成功の鍵を握ります。なぜその作業が必要なのか、その改善がどのような価値を生むのかを、現地の従業員が納得できるよう説明し、共に考えるプロセスが不可欠です。
3. 現地リーダーの育成と権限移譲:
日本人駐在員の究極の役割は、いつか自分がいなくても工場が自律的に運営・改善されていく組織と文化を築き上げることです。そのためには、早い段階から現地の優秀な人材を見出し、リーダーとして育成していくことが極めて重要になります。責任と権限を段階的に移譲し、現地スタッフが主体的に工場運営を担う体制を構築することが、持続的な成長に繋がります。


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