米Fordと中国の吉利汽車(Geely)が、欧州での生産協業について協議を進めていると報じられました。これは、EVシフトが進む自動車業界において、生産能力の最適化とコスト削減を目指す新しい動きとして注目されます。
提携協議の概要
報道によれば、米国のFordと中国のGeelyは、欧州における生産協力の可能性について協議を行っている模様です。具体的には、GeelyがFordの欧州工場の一部スペースを利用し、欧州市場向けの車両を生産するという案が検討されています。この動きは、両社の利害が一致した結果と見ることができます。
各社の狙いと背景
Ford側には、電気自動車(EV)への事業転換に伴う生産体制再編という背景があります。EVの生産は、従来の内燃機関(ICE)車に比べて部品点数が少なく、生産ラインも異なります。そのため、既存のICE車向け工場の稼働率が低下し、生産能力が過剰になるという課題に直面していると考えられます。工場の固定費は、稼働率に関わらず発生し続けます。遊休資産となりかねない生産能力を他社に提供することで、固定費を分担し、資産効率を高める狙いがあるのでしょう。
一方、Geelyにとっては、欧州市場への本格進出に向けた重要な一手となります。自前で工場を新設するには莫大な初期投資と時間がかかりますが、既存の工場を活用することで、それらのコストとリードタイムを大幅に圧縮できます。また、現地生産は関税や物流コストの面でも有利であり、欧州市場での価格競争力を高める上で不可欠な戦略と言えます。
製造業における「水平分業」という新たな潮流
今回の提携協議は、自動車業界における従来の垂直統合・自前主義的な生産モデルからの変化を示唆しています。これまでは、たとえ競合他社であっても、生産ラインを共有することは稀でした。しかし、EV化によって車両の構造がモジュール化し、プラットフォームの共通化が進んだことで、メーカーの垣根を越えた生産協力、いわゆる「水平分業」が現実的な選択肢となってきました。
これは、半導体業界における設計専門のファブレス企業と生産受託専門のファウンドリのような関係性に似ています。自社の強みである設計やブランドに集中し、生産は外部の効率的なパートナーに委託するという考え方です。我々日本の製造業においても、自社の生産技術や品質管理能力を「強み」として捉え、他社の生産を受託するような新たなビジネスモデルを模索する時期に来ているのかもしれません。
日本の製造業への示唆
今回のFordとGeelyの動きは、日本の製造業にとっても多くの示唆を含んでいます。以下に要点を整理します。
1. 事業転換期における遊休資産の活用:
EV化やデジタル化など、大きな事業構造の転換期には、既存の設備や人員が遊休化するリスクは避けられません。自社内での活用に固執せず、他社との協業によって稼働率を維持・向上させるという柔軟な発想が、今後の工場運営において重要になります。
2. 海外進出戦略の多様化:
海外市場へ進出する際、自社単独での大規模投資には大きなリスクが伴います。現地の既存インフラやパートナー企業の能力をうまく活用することは、リスクを抑えながら迅速に市場アクセスを得るための有効な手段です。
3. 生産能力のサービス化という視点:
自社の高い生産技術、品質管理ノウハウ、熟練した人材は、それ自体が価値を持つ経営資源です。これを製品に付随するものとしてだけでなく、生産能力そのものをサービスとして他社に提供するという「製造業のサービス化」も、新たな収益源となる可能性があります。
4. サプライチェーンの再構築:
メーカー間の水平分業が進むと、従来の系列を中心としたサプライチェーンの構造も大きく変化します。自社がどのプレイヤーとどのような関係を築くべきか、常に市場の動向を注視し、サプライチェーン戦略を不断に見直していく必要があります。


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