米空軍の3Dプリンティング活用事例から学ぶ、保守部品サプライチェーンの革新

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米空軍では、旧式航空機の保守部品が入手困難になるという課題に対し、3Dプリンティング技術を活用してオンデマンド生産体制を構築しています。この先進的な取り組みは、日本の製造業における設備保守やサプライチェーン強靭化を考える上で、多くの実務的なヒントを与えてくれます。

はじめに:製造現場が直面する保守部品の供給課題

長年にわたり稼働してきた生産設備や、すでに製造中止となった製品の補修部品の確保は、多くの製造現場にとって悩ましい課題です。サプライヤーが廃業してしまったり、金型が失われていたり、あるいは最小発注数量(MOQ)が大きすぎたりと、理由は様々です。このような状況は、設備の維持や顧客へのアフターサービスに深刻な影響を及ぼしかねません。実は、これは米空軍においても同様で、F-15やC-5といった旧式の航空機の保守部品供給が、その即応性を脅かす大きな課題となっていました。

解決策としてのアディティブ・マニュファクチャリング(AM)活用

この課題に対し、米国ジョージア州のロビンス空軍基地に拠点を置くワーナー・ロビンス航空兵站複合施設(WR-ALC)では、アディティブ・マニュファクチャリング(AM)、いわゆる3Dプリンティング技術を活用した解決策を推進しています。彼らはAM研究室を組織し、必要な部品を必要な時に製造する「オンデマンド生産」の体制を構築しました。

そのプロセスは、まず既存の部品を3Dスキャナーで読み取り、リバースエンジニアリングによって正確なデジタルモデルを作成することから始まります。このデジタルデータがあれば、あとは3Dプリンターを用いて、数日という短期間で部品を製造することが可能です。これにより、従来は数ヶ月から時には数年を要した部品調達のリードタイムが劇的に短縮され、少量生産におけるコストも大幅に削減できるのです。

樹脂から金属まで:目的に応じた多様なAM技術の適用

この取り組みで注目すべきは、用途に応じて多様な3Dプリンティング技術を使い分けている点です。治具や工具、試作品、あるいは負荷の少ない最終製品には、熱可塑性プラスチックなどを用いたポリマー(樹脂)系の3Dプリンターが活用されています。これは日本の製造現場でも比較的導入が進んでいる技術であり、その応用範囲の広さを示しています。

一方で、より高い強度や耐熱性が求められる部品には、金属粉末をレーザーで溶融・積層する金属3Dプリンターが用いられています。アルミニウム、チタン、さらにはニッケル基超合金であるインコネルといった高性能材料にも対応しており、航空機の重要部品を製造できるほどの技術レベルに達しています。これは、AM技術が試作の領域を超え、実用部品の生産手段として確立されつつあることを物語っています。

サプライチェーン強靭化への貢献

米空軍のこの取り組みは、単なる「部品の内製化」にとどまりません。特定のサプライヤーへの依存から脱却し、自律的に部品を供給できる能力を持つことは、サプライチェーン全体の強靭化に直結します。外部環境の変化や不測の事態が発生しても、自組織内で迅速に対応できる体制は、事業継続の観点からも極めて重要です。この成功の背景には、AM技術チームと設計を担うエンジニアリング部門との緊密な連携があったことも見逃せません。技術シーズを現場のニーズに的確に結びつける組織的な仕組みが、成果を生み出す上で不可欠であると言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

この米空軍の事例は、日本の製造業にとっても多くの実務的な示唆を与えてくれます。

1. 保守部品・補給部品問題への応用
製造中止となった古い設備の保守部品や、金型が廃棄された製品の補給部品を、デジタルデータ化して保管し、AM技術でオンデマンド生産する体制は、設備稼働率の維持や顧客満足度の向上に直接貢献します。多額の投資を伴う設備更新を先送りし、既存資産を有効活用する現実的な選択肢となり得ます。

2. サプライチェーンの強靭化とリスク分散
重要部品の調達を単一のサプライヤーに依存している場合、その供給が途絶えるリスクは常に存在します。BCP(事業継続計画)の一環として、主要な補修部品をAMで内製化できる体制を検討することは、供給網のリスク分散に有効な手段です。

3. スモールスタートと部門横断の連携
今回の事例も「小規模なチーム」から始まっています。いきなり最終製品を目指すのではなく、まずは治具や試作品の製作といった、比較的リスクの低い領域からAM技術の導入(スモールスタート)を始め、技術ノウハウを蓄積していくことが現実的です。その過程で、設計、生産技術、品質保証、調達といった関連部署が連携し、全社的な知見として育てていく視点が重要になります。

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