米国にて、製造業の雇用喪失が再び政治的な議論の的となっています。カリフォルニア州知事によるトランプ前大統領への批判をきっかけに、米国の産業政策の大きな潮流と、それが我々日本の製造業に与える影響について考察します。
米国で再び焦点となる製造業の雇用問題
最近、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事が、トランプ前大統領の政策下で製造業の雇用が失われたと批判し、注目を集めました。これは、きたる大統領選挙を見据えた政治的な発言ではありますが、その背景には、米国内における製造業の重要性への強い意識が存在します。製造業の国内回帰(リショアリング)や雇用の維持・創出は、党派を超えた国家的な課題として認識されており、政治の動向が産業政策に直結する状況が続いています。
保護主義と国内投資促進:米国の産業政策の潮流
トランプ前政権は、関税の引き上げなどを通じて自国の産業を保護する政策を鮮明にしました。一方、現在のバイデン政権も、IRA(インフレ削減法)やCHIPS法といった大規模な補助金政策を通じて、半導体や電気自動車(EV)、再生可能エネルギーといった戦略分野での国内生産を強力に後押ししています。手法に違いはあれど、「国内の製造業を強化し、サプライチェーンを自国内に確保する」という大きな方向性は共通しています。これは、経済安全保障の観点からも、米国の揺るぎない国家戦略となっていると理解すべきでしょう。
「雇用の数」の裏にある産業構造の変化
政治の場では「雇用の喪失」という言葉が象徴的に使われがちですが、製造業の現場では、より複雑な変化が起きています。例えば、FA(ファクトリーオートメーション)やロボット技術の導入による省人化は、生産性を高める一方で、特定の職種の雇用を減少させます。また、グローバルな競争の中で、労働集約的な組立工程は海外に移管し、国内では研究開発、設計、高度な要素技術の開発といった高付加価値な領域に注力するという産業構造の転換も進んでいます。したがって、「雇用の数」という一面的な指標だけで、製造業全体の健全性を測ることは困難です。これは、人手不足と生産性向上の両立という課題に直面する日本の製造業にとっても、決して他人事ではありません。
日本の製造業への示唆
今回の米国の議論から、我々日本の製造業が自社の経営や事業戦略を考える上で、いくつかの重要な示唆を得ることができます。
1. 米国産業政策の継続性を見据えた事業計画
米大統領選挙の結果に関わらず、自国産業を優先し、国内サプライチェーンを強化するという大きな流れは続くと考えられます。米国市場で事業を展開する企業は、この政策動向を前提とした生産体制や投資計画を検討する必要があります。
2. サプライチェーンの強靭化と再点検
米国の政策は、日本企業にとって現地生産を促す圧力にも、補助金などを活用できる好機にもなり得ます。地政学的なリスクも踏まえ、特定の国や地域に依存しない、より強靭で複線化されたサプライチェーンの構築は、引き続き最重要課題の一つです。
3. 付加価値創出への視点の転換
米国の議論は「雇用の数」に焦点が当たりがちですが、本質的な競争力は、いかに高い付加価値を生み出すかにかかっています。深刻な人手不足に直面する日本では、なおのことです。自動化やデジタル化を推進し、省人化を実現すると同時に、そこで働く従業員がより高度な分析、改善、開発といった業務に携われるよう、人材育成(リスキリング)を進めていくことが、持続的な成長の鍵を握ります。

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