インド、国内製造業の強化を本格化 – 変貌するグローバル・サプライチェーンと日本企業への示唆

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インド政府が、不安定化する世界貿易環境を背景に、国内製造業の振興策を強化しています。この動きは、世界の生産拠点としてのインドの役割が大きく変化しつつあることを示しており、日本の製造業にとってもサプライチェーン戦略を再考する上で重要な意味を持ちます。

インド政府の動きとその背景

インド政府は、近年の国家予算において、国内製造業の競争力強化と経済成長の維持を目的とした施策を打ち出しました。この背景には、米中間の貿易摩擦や地政学的な緊張の高まり、また新型コロナウイルスのパンデミックを経て顕在化した、特定の国に依存するサプライチェーンの脆弱性があります。世界的に生産拠点の国内回帰(リショアリング)や、近隣国・友好国への移転(フレンドショアリング)の動きが加速する中、インドもこの潮流を捉え、自国を魅力的な生産拠点として位置づけようとしています。

インド政府は「メイク・イン・インディア(Make in India)」政策を掲げ、特に「生産連動型インセンティブ(PLI)スキーム」と呼ばれる補助金制度を通じて、国内外からの投資を積極的に誘致しています。これは、国内での生産高に応じて企業にインセンティブを供与するもので、電子機器、自動車部品、医薬品など幅広い分野が対象となっており、製造業の国内集積を強力に後押しするものです。

生産拠点としてのインドの可能性と課題

日本の製造業にとって、インドは二つの大きな魅力を持っています。一つは、14億人を超える人口と、拡大を続ける中間所得層がもたらす巨大な国内市場です。現地で生産し、現地で販売する「地産地消」モデルを構築できれば、大きな事業機会が期待できます。もう一つは、豊富な若年労働力です。生産年齢人口が多く、人件費も比較的安価なため、労働集約型の産業にとってはコスト競争力のある生産拠点となり得ます。

しかし、一方で課題も存在します。電力や道路、港湾といった産業インフラは、依然として整備途上の地域が多く、物流の安定性には注意が必要です。また、複雑な税制や許認可プロセス、州ごとに異なる法規制など、事業運営上のハードルも少なくありません。品質管理の面でも、現地の労働者に対する日本式の品質文化の浸透や、サプライヤーの品質レベルの確保には、丁寧な指導と根気強い取り組みが求められるでしょう。

サプライチェーン再編の中でのインドの位置づけ

これまで多くの日本企業が「チャイナ・プラスワン」の候補地として東南アジア諸国を重視してきましたが、インドの存在感は急速に高まっています。特に、スマートフォンや電子部品の受託製造サービス(EMS)の世界大手企業が、相次いでインドでの生産能力を増強している事実は注目に値します。これは、インドが単なる組立拠点ではなく、部品供給網も含めた一大産業クラスターへと成長する可能性を示唆しています。

日本の製造業としては、インドを単なるコスト削減のための代替生産地と捉えるだけでなく、地政学的なリスク分散と、成長市場へのアクセスを両立させる戦略的拠点として評価する必要があるでしょう。自社の製品やサプライチェーンの特性を分析し、どの工程をインドに移管することが最適なのか、慎重な検討が求められます。

日本の製造業への示唆

今回のインド政府の動きは、日本の製造業に以下の3つの重要な示唆を与えていると考えられます。

1. サプライチェーンの多元化の加速:中国への一極集中リスクを再評価し、インドを新たな生産・調達拠点として具体的に検討する重要性が増しています。まずは小規模な委託生産や部品調達から始め、現地の事業環境を実地で把握していくアプローチも有効でしょう。

2. インド市場への新たな視点:インドを単なる「生産拠点」としてだけでなく、成長を続ける「巨大市場」として捉え直す必要があります。市場のニーズを的確に捉えた製品を現地で開発・生産する体制を構築することが、将来の成長の鍵となります。

3. 長期的な視点での事業展開:インフラや法制度、品質文化といった課題は、一朝一夕には解決しません。インドでの事業展開を成功させるためには、短期的な利益を追うのではなく、現地の課題にじっくりと向き合い、人材育成やパートナー企業との関係構築に腰を据えて取り組むという、長期的な視点が不可欠です。

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