マレーシア・ペトロナスの投資戦略に学ぶ、既存設備の価値最大化とデータ駆動型生産

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マレーシアの国営石油会社ペトロナスが、2028年に向けた上流部門の投資戦略を明らかにしました。本稿では、同社の戦略の中心である先進技術を活用した既存資産の価値最大化というアプローチを紐解き、日本の製造業がそこから何を学ぶべきか考察します。

ペトロナスが推進する生産最適化戦略

石油・ガス開発の上流部門において、マレーシアのペトロナス社は2028年までの中期的な投資戦略を策定しています。その中で特に注目されるのが、「スマート・コンプリーション・システム」や「EOR(石油増進回収技術)」といった先進技術を駆使し、既存油田からの生産性を最大限に高めようとする姿勢です。具体的には、年間25から30の坑井(油井・ガス井)に対して何らかの改善措置(Intervention)を施し、データに基づいた生産管理の最適化を目指すとしています。

これは、莫大なコストをかけて新規油田を開発するだけでなく、今ある資産の能力を技術によって最大限引き出すという、極めて現実的かつ合理的なアプローチと言えます。製造業で言えば、最新鋭の工場を新設する一方で、既存工場の設備にセンサーや制御システムを追加導入して生産性を向上させる取り組みに近いでしょう。

日本の製造業における「既存資産のスマート化」

このペトロナスの動きは、日本の製造業、特に長年稼働してきた工場を持つ企業にとって示唆に富んでいます。多くの工場では、更新時期を迎えつつあるものの、まだ十分に稼働可能な「レガシー設備」が数多く存在します。これらの設備をすべて最新のものに入れ替えるのは、投資負担の観点から容易ではありません。

そこで重要になるのが、ペトロナスの言う「スマート化」の発想です。既存の設備に後付けでセンサーやカメラを設置し、稼働状況や製品品質に関するデータを収集・可視化する。そして、収集したデータを分析することで、これまで熟練者の経験と勘に頼ってきた運転条件の最適化や、故障の予兆を捉える予知保全を実現していく。こうした「ブラウンフィールド型」のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、少ない投資で着実な成果を上げるための有効な手段となります。

データ駆動型の生産管理への移行

ペトロナスの戦略が目指す「生産管理の最適化(optimised production management)」は、まさにデータ駆動型オペレーションの核心です。気象条件や地層の状態といった外部要因が複雑に絡み合う石油生産において、リアルタイムのデータに基づいて最適な生産計画を立案・実行することは、収益性に直結します。

これは、日本の製造現場にもそのまま当てはまります。材料のロットばらつき、気温や湿度といった環境変化、設備の微細な劣化など、生産性を左右する要因は無数に存在します。これらの変動要因をデータで捉え、品質や生産効率への影響を定量的に分析することで、より科学的で再現性の高い生産管理が可能になります。属人化しがちな現場のノウハウを形式知化し、組織全体の競争力へと昇華させる上で、データ活用は不可欠な要素と言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

ペトロナスの上流部門における投資戦略は、エネルギー業界固有のものに見えますが、その根底にある思想は日本の製造業にとっても重要です。今回の情報から、私たちは以下の点を改めて認識すべきでしょう。

  • 既存資産の価値再評価と高度化:新規の大型設備投資が困難な状況下でも、既存の設備にデジタル技術を組み合わせることで、生産性や品質を向上させる余地は大きい。自社の「眠っている資産」をどう活用できるか、という視点が求められます。
  • データに基づいた意思決定の徹底:経験や勘は依然として重要ですが、それをデータで裏付け、客観的な事実に基づいて改善を進める文化を醸成することが不可欠です。現場の小さな改善から経営判断に至るまで、データ活用の範囲を広げていく必要があります。
  • 中長期的な視点での技術戦略:ペトロナスが2028年という具体的な年限を掲げているように、自社が5年後、10年後にどのような姿でありたいかを定義し、そこから逆算して今打つべき技術的な布石を計画することが、持続的な競争力の源泉となります。
  • サプライチェーン上流の動向注視:エネルギー供給側の企業が生産最適化を進めることは、エネルギー価格の安定化に寄与する可能性がある一方、地政学リスクとも絡み合います。自社のコスト構造や事業継続計画(BCP)を考える上で、サプライチェーン全体の動向を常に把握しておくことが重要です。

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