米国の影響力が相対的に低下する中、中国の巨大な貿易黒字が世界各国の製造業に深刻な影響を及ぼし始めています。この構造的な変化は、価格競争の激化やサプライチェーンの変動をもたらし、日本のものづくりも無縁ではいられません。
世界市場を揺るがす「巨大な不均衡」
近年、中国の製造業が生み出す製品が、かつてない規模で世界市場に流れ込んでいます。背景にあるのは、中国国内の不動産不況などに起因する内需の低迷です。過剰となった生産能力の捌け口を輸出に求める動きが加速しており、特に電気自動車(EV)、リチウムイオン電池、太陽光パネルといった分野での輸出攻勢が顕著になっています。この「巨大な不均衡」は、欧州の先進国からアジアや中南米の新興国に至るまで、世界中の製造業にとって大きな圧力となっています。
価格競争の激化と各国のジレンマ
安価な中国製品の流入は、各国の市場で熾烈な価格競争を引き起こしています。現地の製造業者は、採算の悪化やシェアの低下に直面し、事業の縮小や撤退を余儀なくされるケースも出始めています。特に、脱炭素化を目指す国々にとっては、安価なEVや太陽光パネルは目標達成を後押しする一方で、自国の関連産業を育成する上での大きな障壁となるジレンマを抱えています。これは、我々日本の製造業にとっても対岸の火事ではありません。我々の顧客である海外企業がこの価格圧力に晒されることは、部品や素材を供給するサプライヤーの事業環境にも直接的な影響を及ぼします。
保護主義の高まりとサプライチェーンの再編
こうした状況に対し、米国や欧州連合(EU)は警戒を強めています。不公正な補助金によって価格競争力が不当に高められているとして、反ダンピング調査や追加関税といった対抗措置に乗り出す動きが活発化しています。このような保護主義的な政策は、これまでグローバルに最適化されてきたサプライチェーンのあり方に大きな見直しを迫るものです。地政学的なリスクを考慮し、生産拠点を自国や同盟国へ移管する「デリスキング」や「フレンドショアリング」の流れは、今後さらに加速していくと考えられます。
日本の製造業への示唆
この世界的な構造変化に対し、日本の製造業は冷静に現状を分析し、戦略的に対応していく必要があります。以下に、実務レベルで考慮すべき点を整理します。
1. 価格競争からの戦略的転換
単純な価格競争に巻き込まれることは、消耗戦につながります。品質、技術力、納期の正確性、そして顧客に寄り添ったアフターサービスといった、日本製品が持つ本質的な価値を改めて追求し、付加価値で勝負する領域を明確にすることが不可欠です。コスト削減努力はもちろん重要ですが、それ以上に「我々でなければならない理由」を磨き上げる必要があります。
2. サプライチェーンの強靭化と複線化
特定の国や地域への過度な依存がもたらすリスクを再評価し、サプライチェーンの強靭化(レジリエンス)を進めるべきです。調達先の多様化や、国内生産への一部回帰、あるいは東南アジアなど中国以外の地域での生産体制構築など、有事の際にも事業を継続できる体制を整えることが、経営の安定に直結します。
3. 変化を捉えた事業領域の見直し
各国の保護主義的な政策や規制の動向は、新たな事業機会を生み出す可能性も秘めています。例えば、特定の国で生産された部品の使用を義務付ける規制は、その国での現地生産の追い風になります。マクロな経済・政治動向を注視し、自社の技術や製品が活きる新たな市場やニッチな分野を積極的に開拓していく視点が求められます。
中国の輸出攻勢は、短期的な現象ではなく、世界経済の構造変化の一環として捉えるべきでしょう。我々日本の製造業は、この厳しい外部環境を直視し、自らの強みを再定義しながら、しなやかに変化に対応していくことが求められています。


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