大手自動車メーカーのステランティスが、部品配送センターに自律走行ロボットを導入し、在庫管理の自動化と精度向上を実現しました。本記事では、この先進的な取り組みの概要と、日本の製造業にとっての実務的な意義を解説します。
人と技術が協働する、次世代の倉庫管理
大手自動車メーカーのステランティスは、ミシガン州にあるMopar部品配送センターにおいて、自律走行ロボットを活用した在庫追跡システムを導入しました。この取り組みは、深刻化する人手不足への対応と、サプライチェーンの精度向上を目的としたもので、人と技術の協働による新しい工場・倉庫運営の姿を示唆しています。
導入されたのは、英Dexory社が開発した自律走行ロボットです。このロボットは、倉庫内を自律的に移動しながら、高さ12メートルに及ぶ棚に保管されている部品の在庫を3Dスキャン技術で読み取ります。従来、人間が手作業で行っていた時間と労力のかかる棚卸し作業を、ロボットが夜間などに自動で実行することで、従業員はより付加価値の高い業務に集中できるようになります。
デジタルツインによるリアルタイムの在庫可視化
このシステムの最大の特徴は、収集したデータをリアルタイムで「デジタルツイン」に反映させる点にあります。デジタルツインとは、物理的な倉庫や設備をデジタルの世界にそっくり再現した仮想モデルのことです。ロボットがスキャンした在庫情報(品番、数量、保管場所など)が即座にデジタルツイン上に反映されるため、関係者はいつでも正確な在庫状況をPC画面上で確認できます。
これにより、物理的な在庫とシステム上のデータとの間に生じがちな「在庫差異」を限りなくゼロに近づけることが可能になります。これまで定期的な棚卸しでしか把握できなかった差異を早期に発見・修正できるため、欠品による生産ラインの停止や、過剰在庫によるキャッシュフローの悪化といったリスクを大幅に低減できるのです。これは、サプライチェーン全体の強靭性を高める上でも極めて重要です。日本の製造現場においても、棚卸しの負担や在庫差異の発生は長年の課題であり、こうした技術は有効な解決策の一つとなり得るでしょう。
自動化の先にある「人の役割の変化」
Dexory社の幹部は「人と技術が並んで働くことが、製造業の未来だ」と語っています。この取り組みは、単なる省人化や効率化を目指すものではありません。むしろ、定型的で身体的な負担の大きい作業を技術に任せ、人はデータの分析、改善活動、突発的な問題への対応といった、より創造的で高度な判断が求められる業務へとシフトしていくことを示しています。
在庫管理の自動化によって得られた正確なデータを基に、需要予測の精度を高めたり、最適な発注計画を立案したりするなど、人はこれまで以上に戦略的な役割を担うことになります。技術を導入するだけでなく、それによって創出された時間を活用して、いかに従業員の能力を最大限に引き出すかという視点が、今後の工場運営において一層重要になるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のステランティスの事例は、日本の製造業にとっても多くの示唆に富んでいます。以下に要点を整理します。
1. 在庫管理のDXは「リアルタイム性」が鍵
従来のバーコードやRFIDによる在庫管理から一歩進み、自律走行ロボットとデジタルツインを組み合わせることで、「常時棚卸し」に近い状態が実現できます。リアルタイムかつ正確な在庫データは、生産計画の精度向上やサプライチェーンの混乱に対する迅速な対応を可能にします。
2. 「点」ではなく「面」での自動化・データ活用
単にロボットを導入するだけでなく、収集したデータをデジタルツインとして統合・可視化し、関係者間で共有する仕組みが重要です。これにより、在庫管理という「点」の課題解決が、サプライチェーン全体の最適化という「面」での改善に繋がります。
3. 人材の再配置とスキルシフトへの備え
自動化は、人間の仕事を奪うものではなく、仕事の質を変えるものです。単純作業から解放された従業員を、データ分析やプロセス改善といった高付加価値業務へいかにスムーズに移行させるか。経営層や工場長は、技術導入と並行して、計画的な人材育成や組織変革に取り組む必要があります。
4. 実務への応用に向けて
すべての工場がすぐに大規模なシステムを導入することは難しいかもしれません。しかし、まずは自社の在庫管理における課題(棚卸しの工数、在庫差異の原因など)を明確にすることから始めるべきです。その上で、ドローンによる高所棚の在庫確認や、画像認識AIを活用した検品作業の自動化など、自社の状況に合わせてスモールスタートで技術検証を進めていくことが現実的なアプローチと言えるでしょう。


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