世界最大の電気・電子技術者の学会であるIEEEが、2026年に向けた技術トレンド予測を発表しました。その中で特に注目されるのが、AI需要の急増がデータセンターにおけるエネルギー関連技術の革新を強力に推進するという見解です。これは、日本の製造業にとっても無視できない重要な潮流と言えるでしょう。
AIブームが直面させる「電力の壁」
近年、生成AIをはじめとするAI技術の活用が急速に進展しています。その一方で、AIの学習や推論には膨大な計算能力、すなわち莫大な電力が必要となります。この電力消費の急増は、AIの頭脳であるデータセンターの運用に大きな課題を突きつけています。電力コストの上昇はもちろんのこと、立地によっては電力供給そのものが制約となりかねない状況です。
日本の製造現場においても、AIを活用した検査装置や生産最適化システムの導入が進んでいますが、これは対岸の火事ではありません。将来、より高度なAIを工場全体で活用するようになれば、自社の電力消費量やエネルギー管理のあり方を根本から見直す必要に迫られる可能性があります。
データセンターで求められる3つのエネルギー技術革新
IEEEは、AIの需要増に対応するため、データセンターにおいて以下の3つの分野で技術革新が加速すると予測しています。
1. エネルギー生産(Production)
単に電力会社から供給を受けるだけでなく、データセンター自身がエネルギーを創出する動きが活発化すると考えられます。例えば、敷地内に太陽光発電や燃料電池を設置するオンサイト発電や、より高効率な自家発電システムの開発が求められます。これは、工場の屋根に太陽光パネルを設置する動きと軌を一にするものですが、より高い安定性と効率が要求されるでしょう。
2. エネルギー管理(Management)
膨大なサーバー群の稼働状況に合わせて、電力使用をミリ秒単位で最適化する高度なエネルギー管理システム(EMS)が不可欠になります。AI自身を活用して電力需要を予測し、蓄電池や電力網と連携しながら最も効率的なエネルギー利用を実現する技術です。工場の生産計画と連携したエネルギーの最適化(デマンドレスポンス)など、スマートファクトリーで培われてきた知見が活かせる領域でもあります。
3. エネルギー消費・放熱(Dissipation)
消費電力の大部分は熱に変わるため、サーバーをいかに効率的に冷却するかが鍵となります。従来の空冷方式では限界が見えており、サーバーを特殊な液体に浸して直接冷却する「液冷」技術が本格的に普及すると見られています。また、サーバーから発生する排熱を回収し、周辺地域の暖房や給湯、あるいは工場の乾燥工程などに再利用する「熱回収」の取り組みも重要性を増します。精密な熱制御技術や流体技術は、まさに日本の製造業が得意とするところであり、大きな事業機会が眠っていると言えます。
日本の製造業への示唆
今回のIEEEの予測は、データセンターという特定分野の話にとどまらず、日本の製造業にいくつかの重要な示唆を与えています。
1. 新たな事業機会の探索
データセンター向けの高効率な電源ユニット、冷却装置(液冷システム、高効率ファン、ヒートパイプなど)、エネルギー監視・制御システムといった分野は、今後確実に需要が拡大する市場です。自社の持つ要素技術や製品が、この巨大な成長市場でどのように貢献できるか、改めて検討する価値は大きいでしょう。特に、省エネ性能や信頼性は日本製品の競争力の源泉となり得ます。
2. 自社工場の将来像の再考
AIやデジタル化の進展は、自社工場のエネルギー消費構造を大きく変える可能性があります。データセンターで開発される最先端のエネルギー管理・冷却技術は、数年後にはスマートファクトリーの標準技術となっているかもしれません。将来の設備投資計画やエネルギー戦略を立案する上で、これらの技術動向を注視しておくことが不可欠です。AI導入とエネルギー効率化は、常にセットで考えるべき経営課題となります。
3. サプライチェーン全体での価値創造
自社製品の省エネ性能を高めることは、顧客企業のエネルギーコスト削減や脱炭素化に直接貢献します。つまり、自社の技術革新が、顧客の企業価値向上、ひいてはサプライチェーン全体の持続可能性向上につながるという視点です。AI社会を支える基盤技術を提供することは、製造業としての新たな使命の一つと言えるのかもしれません。


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