ある海外の製造業では、ERPシステムの導入により生産管理にまつわる手作業を80%も削減したと報告されています。本記事では、この事例をもとに、BOMやMRP、生産計画といった業務のデジタル化が、いかにして現場の非効率を解消するのかを、日本の製造業の実務者の視点から解説します。
はじめに:生産管理における手作業の課題
日本の製造現場は高い品質と効率性を誇りますが、その一方で生産管理業務においては、依然として多くの手作業が残っているケースも少なくありません。Excelによる生産計画の立案、紙の図面や作業指示書、手入力による実績収集と集計作業などは、多くの工場で日常的に見られる光景です。これらの手作業は、担当者の負担増につながるだけでなく、転記ミスや情報伝達の遅れ、精度の低い需要予測といった問題の温床となり、工場全体の生産性を阻害する要因となり得ます。
海外事例の概要:ERPによる抜本的な業務改善
今回ご紹介する海外の事例では、ある製造企業がERP(Enterprise Resource Planning)システムを導入し、生産管理業務をデジタル化することで、手作業を80%も削減することに成功しました。この改善は、特定の業務を単独で効率化したものではなく、BOM(部品表)管理、MRP(資材所要量計画)、生産スケジューリング、生産計画といった、生産管理の中核をなす一連の業務プロセスをシステム上で統合管理したことによって達成されました。これまで個別のExcelファイルや帳票で管理されていた情報が一元化され、多くの手作業が自動化されたのです。
なぜ手作業を80%も削減できたのか?
80%という大幅な削減は、どのようにして実現されたのでしょうか。その背景には、ERPがもたらすいくつかの具体的な効果が考えられます。
まず、BOM(部品表)管理の統合です。Excel管理では設計変更のたびに手作業で関連部署へ情報を伝達し、各々が管理するファイルや帳票を更新する必要がありました。ERP上ではBOMが一元管理されるため、設計変更が即座に購買部門や製造部門の計画に反映され、手作業による転記やそれに伴うミスが根本的になくなります。
次に、MRP(資材所要量計画)の自動化が挙げられます。確定した生産計画とBOM情報に基づき、必要な資材の量と手配時期をシステムが自動で算出します。これにより、担当者が膨大な時間を費やしていた部品点数の拾い出しや在庫確認、発注計算といった作業が不要になります。結果として、発注漏れによる生産遅延や、過剰在庫のリスクを大幅に低減できます。
さらに、生産スケジューリングの最適化も大きな要因です。担当者の経験と勘に頼りがちだった工程計画を、設備の稼働状況や人員の負荷、納期といった制約条件を考慮しながらシステムが自動で立案します。これにより、計画策定にかかる時間が短縮されるだけでなく、工場リソースの平準化やリードタイムの短縮といった質的な改善も期待できます。
これらの機能が連携し、これまで人手を介して行われていた情報の集計、伝達、計算といった多くの付帯業務がシステムに置き換わることで、結果的に80%もの手作業削減が実現したと考えられます。
日本の製造業における導入の留意点
このような海外の成功事例は非常に参考になりますが、そのまま日本の製造業に適用する際にはいくつかの留意点があります。日本の現場は、独自のノウハウや「すり合わせ」の文化によって高い競争力を維持してきた側面があり、全ての業務をパッケージシステムの標準機能に当てはめることには抵抗が生じる可能性もあります。
ERP導入は単なるツールの導入ではなく、業務プロセスそのものを見直し、標準化していく活動(BPR)と一体で進める必要があります。現場の担当者が長年培ってきた知見を尊重しつつ、どこを標準化し、どこに独自の強みを残すのかを慎重に見極めることが、導入を成功させる鍵となるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の事例から、日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたります。以下に要点を整理します。
データの一元管理が非効率を解消する
BOM、在庫、生産計画といった基幹情報が部門ごとに散在している状態は、多くの手作業とミスの原因となります。これらの情報をERPによって一元管理することは、業務効率化の最も確実な第一歩です。
付帯業務の削減で、本来業務へ集中する
生産管理担当者や現場リーダーが、データ入力や集計作業に時間を奪われている現状は、企業にとって大きな損失です。デジタル化によって付帯業務を削減し、彼らが品質改善や生産性向上、人材育成といった、より付加価値の高い本来業務に集中できる環境を整えることが重要です。
業務の標準化が競争力の源泉となる
属人化された業務は、担当者の退職などによって失われるリスクを常に抱えています。ERP導入をきっかけに業務プロセスを見直し、標準化を進めることは、企業の技術やノウハウを組織の資産として継承し、持続的な競争力を確保することにつながります。
スモールスタートの検討
全社一斉のERP導入は大規模な投資と変革を伴います。まずは特定の製品ラインや工場、あるいはBOM管理や在庫管理といった特定の業務領域からデジタル化に着手し、効果を検証しながら段階的に範囲を拡大していくアプローチも有効な選択肢と言えるでしょう。


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