個別化生産の未来か―細胞治療の製造自動化を目指す米Cellares社の2.5億ドル資金調達

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米国のバイオテクノロジー企業Cellares社が、細胞治療の製造規模拡大を目的として2億5700万ドル(約380億円)という大規模な資金調達に成功しました。この動きは、究極の個別生産とも言える細胞治療の分野で、製造自動化と標準化がいかに重要視されているかを示すものであり、日本の製造業にとっても示唆に富む事例と言えるでしょう。

概要:細胞治療製造の革新を目指す大型資金調達

2023年8月、細胞治療の製造技術を開発する米Cellares社は、シリーズCラウンドで2億5700万ドルの資金調達を完了したと発表しました。調達した資金は、同社が開発した自動製造プラットフォーム「Cell Shuttle」の商業化を加速させるとともに、米国ニュージャージー州、EU、そして日本に商業規模の「スマートファクトリー」を建設するために活用される計画です。同社は、製薬企業から開発・製造を一貫して受託するIDMO(Integrated Development and Manufacturing Organization:統合開発製造組織)としての地位確立を目指しています。

従来の細胞治療製造が抱える構造的課題

CAR-T療法に代表される細胞治療、特に患者自身の細胞を用いる自家細胞治療は、患者一人ひとりが一つの製造バッチとなる、まさに「究極の個別生産」です。従来の製造プロセスは、クリーンルーム内での手作業に大きく依存しており、多くの課題を抱えていました。

具体的には、①熟練した作業者の確保が不可欠であること、②人為的ミスによる製造失敗のリスクが高いこと、③プロセスが複雑でスループットが上がらず、製造コストが極めて高額になること、④生産能力の増強(スケールアップ)が困難であること、などが挙げられます。これは、多品種少量生産や変種変量生産において、品質、コスト、納期(QCD)の最適化に苦心する日本の製造現場が抱える課題と多くの点で共通しています。

Cellares社のアプローチ:「Cell Shuttle」による自動化と標準化

Cellares社は、これらの課題を解決するため、完全に自動化された閉鎖系の製造プラットフォーム「Cell Shuttle」を開発しました。これは、細胞の培養から加工、品質検査までの一連の工程を、無菌状態が保たれたカートリッジのような装置内で一貫して行うものです。手作業を徹底的に排除することで、同社は以下の効果を謳っています。

  • 製造失敗率の低減:ヒューマンエラーを排除し、プロセスを標準化することで、製造失敗率を従来の3分の1にまで削減できるとしています。
  • 大幅なコスト削減:人件費やクリーンルームの設備投資を抑え、プロセスを効率化することで、患者一人当たりの製造コストを最大で75%削減可能としています。
  • 柔軟な生産能力(スケールアウト):従来の大規模な培養槽で生産量を増やす「スケールアップ」ではなく、標準化されたCell Shuttleのユニットを並列に増設していく「スケEルアウト」というアプローチを採用しています。これにより、需要の変動に応じて柔軟かつ迅速に生産能力を調整することが可能になります。これは、需要予測が難しい製品の生産計画において、非常に合理的な考え方です。

「スマートファクトリー」と新しいビジネスモデル

同社は、このCell Shuttleを中核とした「スマートファクトリー」のグローバル展開を計画しており、その候補地の一つに日本が含まれていることは注目に値します。これは、日本が細胞治療の重要な市場であると同時に、高度なものづくりの知見や人材が集積していることの表れとも考えられます。

また、単に製造装置を販売するのではなく、自らが工場を建設・運営し、製薬企業から開発・製造を受託するIDMOというビジネスモデルは、製造業が単なる「請負」から、技術プラットフォームを核とした「サービス提供」へと進化していく一つの方向性を示唆しています。

日本の製造業への示唆

このCellares社の事例は、最先端のバイオ医薬品分野の話ではありますが、日本の製造業が学ぶべき点は少なくありません。

1. 究極の個別生産における自動化・標準化の重要性
顧客の要求が多様化し、一品一様生産やマスカスタマイゼーションへの対応が求められる中で、人手と熟練技能に依存した生産体制には限界があります。工程をモジュール化・標準化し、自動化技術を組み込むことで、品質を安定させながらコストを抑制するというアプローチは、あらゆる業種で応用可能です。

2. 「スケールアウト」という発想の転換
大規模な一括投資で巨大な生産ラインを構築する「スケールアップ」だけでなく、標準化された小型の生産ユニットを需要に応じて追加していく「スケールアウト」は、不確実性の高い時代における設備投資の考え方として非常に有効です。初期投資を抑え、市場の反応を見ながら柔軟に生産能力を増強できるメリットは大きいでしょう。

3. プロセス起点の品質とコストの作り込み
閉鎖系の自動化システムは、コンタミネーション(異物混入)リスクを低減し、製品の品質をプロセスそのもので保証するアプローチです。これは、最終検査に頼るのではなく、製造工程の各段階で品質を作り込むという、日本の製造業が本来得意としてきた考え方を、最新技術で具現化したものと捉えることができます。

4. 製造技術を核としたサービス事業への展開
自社の強みである製造技術をプラットフォーム化し、他社の開発や製造を支援するサービスとして提供するビジネスモデルは、自社製品の製造だけにとどまらない新たな価値創造の可能性を示しています。これは、サプライチェーン全体を見据えた事業戦略を考える上で、重要な視点となるでしょう。

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