海外調査にみる製造業DXの現在地:AIは実用段階へ、ERPが中核を担う

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クラウドERPを手掛ける米国Rootstock Software社が、北米、欧州、日本の製造業を対象とした技術動向調査の結果を発表しました。本記事では、この調査から明らかになったAI活用の実態やDX推進の課題について、日本の製造業の実務的な視点から解説します。

調査の概要:グローバルな製造業の技術動向を把握

この調査は、クラウドERPを提供するRootstock Software社が、北米、欧州、日本の製造業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)やAI活用の現状を把握するために実施したものです。グローバルな潮流を知ることは、自社の立ち位置を客観的に評価し、次の一手を考える上で非常に有益な情報となります。

AI活用の具体的な進展:予測分析と予知保全が牽引

調査結果で特に注目されるのは、AIが単なる概念的な議論の段階を越え、具体的な業務改善ツールとして導入・活用され始めている点です。特に「予測分析」や「予知保全」といった領域での活用が進んでいることが報告されています。これは、日本の製造現場においても関心の高いテーマではないでしょうか。熟練技術者の経験と勘に頼ってきた設備の異常検知や故障予測を、データに基づいて行う予知保全は、安定稼働とメンテナンスコストの最適化に直結します。また、需要予測の精度向上は、過剰在庫の削減や生産計画の最適化に繋がり、経営効率の改善に大きく貢献します。AIは、熟練者のノウハウの形式知化という、我々が長年抱えてきた課題に対する有効な解の一つとして、その実用性が認識されつつあると言えるでしょう。

DXの中核を担うERPシステムとクラウド化の潮流

今回の調査では、DX推進の技術的な基盤として、ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)が依然として中核的な役割を担っていることが示されました。特に、柔軟性や拡張性、迅速な導入が可能なクラウドERPへの投資が活発化しています。これは、散発的なツールの導入による「部分最適」から、全社のデータを統合・連携させて「全体最適」を目指すという、DX本来の目的に立ち返る動きと捉えることができます。日本の製造業、特に中小企業においては、部門ごとにシステムがサイロ化していたり、長年使い続けたオフコンや独自開発のシステムが足枷となっていたりするケースが少なくありません。生産、販売、購買、在庫、会計といった基幹情報が一元管理されていなければ、データに基づいた迅速な経営判断は困難です。レガシーシステムからの脱却と、データ活用基盤としてのERP再構築は、多くの日本企業にとって避けては通れない道筋です。

依然として残る課題:スキル不足と組織の壁

一方で、DX推進における課題も浮き彫りになりました。具体的には、「データ活用スキルの不足」「既存システムとの統合の複雑さ」「変化に対する組織的な抵抗」などが挙げられています。これは、技術の導入そのものよりも、むしろ人や組織に起因する問題であり、日本の多くの企業が直面している課題と全く同じです。高機能な分析ツールを導入しても、それを使いこなせる人材がいなければ宝の持ち腐れになります。また、部門間の壁がデータの共有を阻み、全社的な取り組みの妨げになることも日常的に起こり得ることです。技術の導入と並行して、人材育成や部門横断の協力体制づくり、そして経営層による明確な方針提示といった組織的な取り組みが、DX成功の鍵を握ることは間違いありません。

サプライチェーン強靭化とESGへの対応という新たな動機

DXを推進する動機として、従来の生産性向上やコスト削減に加え、「サプライチェーンの強靭化(レジリエンス向上)」や「ESG(環境・社会・ガバナンス)への対応」が重要視されていることも、本調査が示す興味深い点です。地政学的なリスクや自然災害など、サプライチェーンの寸断リスクが高まる中で、供給網全体を可視化し、変化に迅速に対応できる体制の構築は喫緊の経営課題です。また、脱炭素化をはじめとする環境規制への対応も、企業の持続的な成長に不可欠な要素となっています。これらの複雑な課題に対応するためには、社内外のデータをリアルタイムに収集・分析できるデジタル基盤が不可欠であり、DXの目的がより戦略的な領域へと拡大していることがうかがえます。

日本の製造業への示唆

今回の調査結果から、日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたります。以下に要点を整理します。

1. AIは「検討」から「実践」の段階へ:
AIはもはや遠い未来の技術ではありません。予知保全、需要予測、品質検査など、自社の現場が抱える具体的な課題と結びつけ、スモールスタートでも実践に移すべき時期に来ています。まずは特定の設備や工程を対象に、データ収集と分析から始めてみることが重要です。

2. データ連携基盤としてのERPの再評価:
DXの目的は、全社に散在するデータを連携させ、新たな価値を創造することにあります。その中核となるのがERPです。自社の基幹システムがデータのサイロ化を助長していないか、今一度見直し、クラウドへの移行も含めた刷新を検討することが求められます。

3. 技術と組織は両輪で:
最新技術を導入するだけではDXは成功しません。それを使いこなす人材の育成、データに基づいた意思決定を是とする文化の醸成、部門の壁を越えた協力体制の構築など、組織的な変革への取り組みが不可欠です。経営層の強いリーダーシップが特に重要となります。

4. DXの目的をより高い視座で設定する:
目先のコスト削減や効率化だけでなく、サプライチェーンの強靭化やESG対応といった、より大きな経営課題の解決にDXを位置づける視点が重要です。「何のためにデジタル技術を使うのか」という目的を明確にすることが、全社的な取り組みを推進する原動力となります。

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