英国のテレビ業界に関する人事ニュースが報じられました。一見、日本の製造業とは無関係に思えるこの情報から、私たちが日常的に使う「生産管理」という言葉が、業界によっていかに異なる意味を持つかが見えてきます。本稿ではこの事例を基に、異業種連携やグローバル化が進む現代において、言葉の定義を共有することの重要性を考察します。
はじめに:異業種のニュースから何を学ぶか
先日、英国の王立テレビジョン協会(Royal Television Society)が新しい評議員を任命したというニュースが発表されました。その中で、新任者の経歴として「Production Management(プロダクション・マネジメント)」という言葉が使われています。製造業に身を置く我々にとって、「生産管理」は馴染み深い言葉ですが、このニュースの文脈では、我々の認識とは少し異なる意味で使われているようです。
本稿では、このテレビ業界の事例を糸口に、製造業における「生産管理」との違いを明確にし、異業種や海外のパートナーと協業する際に生じがちな、言葉の定義のズレとそのリスクについて考えてみたいと思います。
テレビ業界における「Production Management」
元記事の文脈における「Production Management」は、テレビ番組や映画といった映像コンテンツの「制作管理」を指しています。これは、ひとつの作品を完成させるというプロジェクト目標に向けた管理業務です。具体的には、定められた予算と納期の中で、脚本家、監督、俳優、技術スタッフといった多くの関係者を調整し、撮影スケジュールや機材の手配、ロケーションの確保、編集作業の進捗などを管理する役割を担います。
つまり、非定型的でクリエイティブな要素が強いプロジェクトを、円滑に完遂させるためのマネジメント手法と言えます。一度きりのプロジェクトが完了すれば、そのチームは解散することも多く、継続的な改善よりも、個々のプロジェクトの成功が主眼に置かれます。
製造業における「生産管理」との違い
一方、私たち製造業における「生産管理」は、より体系的かつ継続的な活動を指します。その目的は、工場という組織全体の生産活動を最適化し、QCD(品質・コスト・納期)を継続的に向上させることにあります。その業務範囲は、需要予測に基づいた生産計画の立案、資材所要量計画(MRP)による部品や原材料の調達、日々の生産進捗を管理する工程管理、適切な量を維持するための在庫管理、そして原価管理や品質管理活動まで、多岐にわたります。
こちらは、定められた仕様の製品を、効率的かつ安定的に、繰り返し生産するための仕組みそのものを構築・維持・改善していく活動です。テレビ業界のプロジェクトマネジメント的な側面とは異なり、工学的なアプローチや統計的な手法が多用される、よりシステム的な管理体系であると言えるでしょう。
言葉の定義を共有する重要性
このように、同じ「生産管理」という言葉でも、業界が異なればその指し示す業務の範囲や目的、手法が大きく異なります。これは、製造業が他業種と連携する際に、重要な示唆を与えてくれます。例えば、工場のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する際にITベンダーと話す場合、「リードタイム」や「在庫」といった基本的な言葉の定義ですら、認識のズレが生じることがあります。
製造現場の「当たり前」が、相手にとっては当たり前ではない可能性を常に念頭に置く必要があります。プロジェクトの初期段階で、こうした基本的な用語の定義をお互いに確認し、共通の言語を持つ努力を怠ると、後々大きな手戻りや意思疎通の齟齬を招きかねません。特に、海外企業とのサプライチェーン構築や技術提携においては、こうした文化や常識の違いがより顕著になるため、一層の注意が求められます。
日本の製造業への示唆
今回の異業種の事例から、日本の製造業が実務を進める上で留意すべき点を以下に整理します。
1. 用語の定義の確認を徹底する
異業種のパートナー(特にIT業界など)や海外企業と協業する際は、プロジェクトの最初に「用語集」を作成するなどして、基本的な専門用語の定義を共有・合意するプロセスを設けることが極めて重要です。これにより、コミュニケーションの齟齬を未然に防ぐことができます。
2. コミュニケーションの「翻訳者」を意識する
異なる文化や専門性を持つ組織の間では、両者の意図を正確に汲み取り、互いに理解できる言葉で伝える「翻訳者」的な役割を担う人材が不可欠です。それは特定の担当者かもしれませんし、管理職が意識的にその役割を果たすべき場面もあるでしょう。円滑な連携の鍵は、こうしたブリッジ機能にあります。
3. 自社の「常識」を客観視し、言語化する
我々が自明のものとして使っている現場の言葉や管理手法も、一歩外に出れば特殊なものである可能性があります。自社の強みや業務プロセスを外部へ説明する際には、相手の知識レベルや背景を考慮し、「なぜそうしているのか」という目的や理由から丁寧に言語化する姿勢が、相互理解を深める上で大切になります。


コメント