なぜ製造現場の提案は経営層に響かないのか?ー現場と経営の「言語」の壁を越えるために

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製造現場のリーダーが、必要な設備投資や改善活動の重要性を経営会議で訴えても、なかなか理解を得られない。このような経験は、多くの工場長や技術者にとって身に覚えがあるのではないでしょうか。その背景には、現場と経営層との間にある「コミュニケーションの壁」が存在します。

現場と経営、それぞれの「言語」

海外の産業系メディアで、「なぜ製造業のリーダーは取締役会で失敗するのか」という趣旨の記事が議論を呼んでいます。この記事が指摘するのは、製造、サプライチェーン、工場運営を担うリーダーたちと、取締役会を構成する経営層とでは、用いる「言語」が根本的に異なるという問題です。

製造現場のリーダーは、OEE(設備総合効率)、サイクルタイム、歩留まり、リードタイムといった、オペレーションの効率性や品質を示す具体的な指標で物事を語ります。これらは日々の生産活動を管理し、改善を進める上で不可欠な共通言語です。しかし、経営層が意思決定の際に重視するのは、ROI(投資利益率)、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)、キャッシュフロー、市場シェアといった財務的な指標や戦略的なインパクトです。この「言語」の違いが、両者の間に深い溝を生む原因となっています。

コミュニケーションの壁がもたらす弊害

このコミュニケーションギャップは、単なる「話が通じない」という問題にとどまりません。現場が必要と考える老朽設備の更新や、DX推進のためのデジタル技術導入、あるいは将来を見据えた人材育成への投資などが、経営層から見ると「コスト」としか映らず、承認が先送りされる事態を招きます。

結果として、現場の改善努力は正当に評価されず、従業員の士気は低下します。中長期的には、工場の競争力そのものが削がれ、企業全体の成長機会を逸することにも繋がりかねません。経営層としても、現場の実態を正確に把握できないまま戦略を立てることになり、意思決定の質が低下するリスクを抱えることになります。

現場の論理を「経営の言葉」に翻訳する

この壁を乗り越えるために、製造現場のリーダーに求められるのは、自らの提案を「経営の言葉」に翻訳する能力です。技術的な優位性やオペレーション上の改善効果を語るだけでなく、それが最終的に企業の財務にどのようなプラスの影響をもたらすのかを、論理的かつ定量的に説明する必要があります。

例えば、「この新型設備を導入すれば、サイクルタイムが15%短縮され、段取り替えの時間も半減します」という説明だけでは不十分です。これを、「本設備投資により、年間XXX万円の人件費削減と、生産能力の向上による年間YYY万円の増収が見込まれます。投資回収期間はZ年であり、競合A社に対する納期遵守率での優位性を確立できます」といった形で、財務的なリターンと事業戦略上の意義を明確に伝えることが重要です。

提案の際には、なぜその投資が「今」必要なのかという緊急性、考えられるリスク、そして他の選択肢(代替案)との比較なども含めることで、経営層が多角的に判断できる情報を提供することが、信頼獲得の鍵となります。

日本の製造業への示唆

最後に、この課題に対する日本の製造業への実務的な示唆を整理します。

・視点の転換と学習の必要性
工場長や製造部門のリーダーは、技術や現場管理のプロフェッショナルであると同時に、自部門を経営する「ミニ経営者」としての視点を持つことが求められます。日々の業務に加え、財務諸表の基礎や経営戦略に関する知識を学ぶことは、もはや特別なことではありません。自らの活動が、会社の損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)にどう結びつくのかを意識することが、説得力のある提案の第一歩です。

・次世代リーダーの育成
企業としては、将来の工場長や幹部候補者に対して、技術教育だけでなく、体系的な経営教育や財務リテラシー向上の機会を提供することが不可欠です。ジョブローテーションを通じて、生産技術、品質管理、製造といった現場部門だけでなく、経理や経営企画といった管理部門の業務を経験させることも有効な手段でしょう。

・双方向の対話の重要性
この問題は、現場側だけの努力で解決するものではありません。経営層もまた、定期的に工場へ足を運び、現場の実態や課題を直接見聞きすることが重要です。数字だけでは見えない現場の知恵や潜在的なリスクを肌で感じることで、現場からの提案の背景を深く理解できるようになります。現場と経営が共通の危機感と目標を共有するための、継続的な対話の場を組織的に設けることが、持続的な競争力の源泉となります。

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