ホンダ・GMの燃料電池合弁事業終了から学ぶ、次世代技術における協業と自社戦略の分岐点

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本田技研工業(ホンダ)と米ゼネラルモーターズ(GM)は、燃料電池(FC)システムの製造合弁事業を終了することを発表しました。これは技術開発の失敗ではなく、基礎技術の確立という共通目標を達成した両社が、それぞれの事業戦略に基づき次の段階へ移行するための戦略的判断と見られます。本件は、日本の製造業が次世代技術の事業化を進める上で、協業のあり方や出口戦略を考える貴重なケーススタディと言えるでしょう。

合弁事業の設立経緯とその成果

ホンダとGMは2017年、燃料電池(FC)システムを共同で量産するため、折半出資で合弁会社「Fuel Cell System Manufacturing LLC(FCSM)」を米国ミシガン州に設立しました。両社は合計8,500万ドルを投じ、FCシステムの心臓部であるセルスタックの生産コストを大幅に引き下げることを目指しました。特に、高価な貴金属である白金の使用量削減や、生産プロセスの自動化によるスケールメリットの追求が大きな目的でした。

この協業は大きな成果を上げたと見られています。実際に、ホンダが2024年に日米で発売を予定している新型燃料電池車「CR-V e:FCEV」には、この合弁事業で生産された次世代FCシステムが搭載されます。報道によれば、従来システムと比較してコストは3分の1に、耐久性は2倍に向上したとされており、共同開発と量産技術の確立という当初の目標は達成されたと考えられます。

事業戦略の成熟に伴う「発展的解消」

ではなぜ、成果を上げた合弁事業をこのタイミングで終了するのでしょうか。その背景には、両社の事業戦略が「基礎技術開発」のフェーズから、具体的な「製品・市場への応用」フェーズへと移行したことが挙げられます。

ホンダは、乗用FCVを起点としながらも、その技術を商用車、定置用電源、さらには建設機械などへ幅広く展開する「マルチパスウェイ」戦略を掲げています。多様な用途への展開を見据え、今後は自社でFCシステムの生産・販売をコントロールしていくことが最適と判断したのでしょう。自社工場での内製化は、様々な製品仕様への柔軟な対応や、サプライチェーンの最適化、さらには技術ノウハウの社内蓄積といったメリットにつながります。

一方のGMは、事業の主軸をバッテリー式電気自動車(BEV)に置いています。FC技術については、乗用車よりも大型トラック、航空宇宙、鉄道といった、より大型で長距離輸送を担う領域での活用に可能性を見出しているようです。GMにとっては、特定の乗用車向けにFCシステムの量産を続けるよりも、より専門的な分野での事業化を個別に模索する方が合理的という判断に至ったものと推察されます。

このように、同じFC技術であっても、両社が描く事業化のロードマップが異なってきたことが、今回の合弁解消の直接的な理由です。これは提携の失敗ではなく、むしろ協業によって技術が成熟し、各社が独自の事業戦略を描ける段階に至ったことを示す「発展的解消」と捉えるべきでしょう。

知的財産の共有と今後の展開

重要な点は、合弁事業は終了するものの、共同開発で得られた知的財産(IP)は今後も両社が共有し、それぞれが活用していくという点です。これは、競争領域と協調領域を明確に分ける「オープン&クローズ戦略」の一例と見ることができます。

FCシステムの基礎開発というコストとリスクが高い領域では協業し(協調)、その技術をどの製品にどう搭載し、いかに市場で競争していくかという領域では各社が独自性を追求する(競争)。この考え方は、技術が複雑化し、開発投資が巨額になりがちな現代の製造業において、非常に現実的なアプローチです。FCSMの従業員も、それぞれの親会社に再配置される見込みであり、培われた知見やスキルは両社に引き継がれていきます。

日本の製造業への示唆

今回のホンダとGMの事例は、日本の製造業、特に新しい技術の事業化に取り組む企業にとって、多くの実務的な示唆を含んでいます。

1. 先行技術開発における協業の有効性
市場が未成熟で先行投資の負担が大きい技術領域において、競合他社であっても共同で開発・生産に取り組むことは、リスクとコストを分担する上で極めて有効な手段です。特に、要素技術の確立や標準化、サプライチェーンの構築といった段階では、協業のメリットは大きいと言えます。

2. 「協業の出口戦略」の重要性
提携を開始する際には、どのような状態になったら目的達成とするのか、そしてその後の関係性をどうするのかという「出口戦略」をあらかじめ想定しておくことが重要です。今回の事例は、技術確立という目標を達成した上で、互いの戦略を尊重し円満に提携を解消するという、計画的な協業の成功例と見ることができます。

3. 事業フェーズに応じた生産体制の最適化
技術開発フェーズから事業化・量産フェーズへと移行する中で、最適な生産体制は変化します。自社での一貫生産、外部パートナーとの連携、あるいは新たな合弁の設立など、製品戦略や市場環境に応じて柔軟に生産形態を見直す経営判断が求められます。自社の強みをどこで発揮するのかを常に問い続ける必要があります。

4. コア技術の多角的な応用(マルチパスウェイ)
自社が持つコア技術を、単一の製品や市場だけでなく、複数の用途に応用していく視点は、事業の安定性と成長性を高める上で不可欠です。ホンダのFC技術に対するアプローチは、多くのメーカーにとって参考になる考え方でしょう。自社の技術ポートフォリオを見直し、新たな応用先を模索するきっかけとなり得ます。

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