米国サプライチェーン大手CEOが語る、製造業の現在地と未来像

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工業用消耗品大手の米Fastenal社CEOが、米国製造業の国内回帰や新技術の活用、サプライチェーンの変化について語りました。本記事では、その内容を日本の製造業の実務者の視点から読み解き、今後の工場運営や経営への示唆を探ります。

米国で進む製造業の国内回帰とサプライチェーンの再構築

米国の工業・建設用消耗品サプライヤー大手であるFastenal社のダン・フローネスCEOは、近年の米国製造業の動向として、生産拠点の国内回帰(リショアリング)や近隣国への移転(ニアショアリング)が着実に進んでいると指摘しています。この動きは、単に政治的な要請だけでなく、長大化したグローバル・サプライチェーンの脆弱性がコロナ禍や地政学リスクによって露呈したことが大きな要因です。多くの企業が、安定供給とリスク管理の観点から、サプライチェーンの短縮化と強靭化(レジリエンス)を重視するようになっています。

これは、海外に多くの生産拠点を持ち、グローバルで複雑なサプライチェーンを構築してきた日本の製造業にとっても、決して他人事ではありません。効率一辺倒のサプライチェーンから、事業継続性を考慮した多角的な供給網へと、その設計思想を見直す時期に来ていると言えるでしょう。

テクノロジーが変える「工場内の最後の10メートル」

人手不足が深刻化する中、製造現場では自動化やデジタル技術の活用が不可欠になっています。フローネスCEOが特に強調するのは、工場内における消耗品や工具の管理、いわゆるMRO(Maintenance, Repair, and Operations)領域の変革です。同社は、顧客の工場内に工具や安全保護具などを保管する産業用自動販売機(Vending Machine)を設置し、使用実績をリアルタイムでデータ化するサービスを展開しています。これにより、顧客は在庫管理の工数を劇的に削減できるだけでなく、誰が・いつ・何を・どれだけ使ったかを正確に把握できます。

この取り組みは、単なる省力化にとどまりません。蓄積されたデータは、将来の需要予測や工具の摩耗予測、ひいては設備の予防保全にも活用できる可能性を秘めています。これは、日本の製造業が長年得意としてきた「カイゼン」活動に、デジタルの力を掛け合わせるアプローチと言えます。大規模な基幹システム導入だけでなく、こうした現場の具体的な課題、いわば「工場内の最後の10メートル」からDX(デジタルトランスフォーメーション)に着手することの有効性を示唆しています。

「ジャスト・イン・タイム」から「レジリエンス」重視へ

かつて製造業の理想とされた「ジャスト・イン・タイム(JIT)」の思想も、見直しの対象となっています。必要なものを、必要な時に、必要なだけ調達するというJITの考え方は、サプライチェーンが安定しているという前提の上に成り立っていました。しかし、近年の供給網の混乱は、その前提を大きく揺るがしました。結果として、多くの企業が「万が一」に備える「ジャスト・イン・ケース」の考え方を取り入れ、戦略的に在庫を確保する方向にシフトしています。

もちろん、これは単なる在庫の積み増しを意味するわけではありません。どの部品を、どこに、どれだけ配置すべきか。データに基づいた需要予測とリスク分析を組み合わせ、サプライチェーン全体で在庫を最適化する高度な管理能力が求められます。在庫を「悪」と見なすのではなく、事業継続のための「戦略的バッファー」と捉え直す視点が重要です。

変化の時代に求められるリーダーシップ

こうした事業環境の変化に対応していく上で、最も重要な要素の一つがリーダーシップです。新しい技術の導入やサプライチェーンの見直しは、現場の業務プロセスに大きな変化をもたらします。フローネスCEOは、リーダーがこれらの変化を主導し、従業員が新しいスキルを習得できるよう支援することの重要性を説いています。なぜ変革が必要なのかという目的を丁寧に説明し、現場の不安を取り除きながら、一歩ずつ着実に前進させていく姿勢が不可欠です。技術や戦略だけでなく、それを動かす「人」への投資と配慮こそが、変革を成功に導く鍵となるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回のFastenal社CEOのインタビューから、日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたります。以下に要点を整理します。

1. サプライチェーンの再評価と強靭化:
効率性のみを追求するのではなく、地政学リスクや自然災害などを織り込んだサプライチェーンの複線化・多拠点化を本格的に検討すべきです。国内回帰や、信頼できるパートナー国との連携強化が、今後の安定生産の鍵となります。

2. 現場起点のデジタル活用(DX):
全社的な大規模システム改革だけでなく、工場内の工具管理や消耗品発注といった、身近で具体的な課題解決からDXを始めることが有効です。小さな成功体験を積み重ねることが、組織全体のデジタル化への意識を高めます。

3. 「適正在庫」の概念の見直し:
在庫レベルの決定において、従来の効率性に加え、事業継続性(BCP)の観点をより重視する必要があります。データ分析に基づき、欠品が事業に与えるインパクトを評価し、戦略的なバッファー在庫を定義することが求められます。

4. 変革を推進するリーダーシップと人材育成:
経営層や工場長は、変化の必要性を自らの言葉で現場に伝え、新しい技術や働き方を積極的に支援する役割を担うべきです。従業員のリスキリング(学び直し)への投資は、企業の持続的な競争力の源泉となります。

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