米国の新興企業InfinitForm社が、「製造起点(Manufacturing-first)」を掲げるAIジェネレーティブエンジニアリングのプラットフォームを発表しました。この技術は、設計と製造の間に存在する根深い溝を埋め、開発リードタイムを劇的に短縮する可能性を秘めており、日本の製造業にとっても注目すべき動きと言えるでしょう。
「製造起点」という新たな設計思想
製品開発の現場では、設計部門が作成した図面が製造部門に渡された後で、製造上の制約から大幅な手戻りが発生する、という課題が長年存在してきました。いわゆる「設計と製造の壁」です。これに対し、InfinitForm社が提唱するのは「製造起点(Manufacturing-first)」というアプローチです。これは、設計の初期段階から製造の実現可能性やコスト、効率性を最優先に考慮する考え方であり、同社のプラットフォームの中核をなしています。
このプラットフォームは、AIの力を活用して設計と生産のプロセスを統合します。設計者が基本的な要件や性能目標を入力すると、AIが製造方法や材料の制約を自動的に考慮しながら、最適な形状や構造を複数提案します。これにより、従来は熟練の設計者や製造技術者が多くの時間を費やしていた「製造性考慮設計(DFM)」のプロセスを、大幅に自動化・効率化することを目指しています。
自動化されたエンジニアリングがもたらす変化
同社のプラットフォームの核となるのは、「自動化されたエンジニアリングインテリジェンス」です。これは単に形状を生成するだけでなく、切削、鋳造、射出成形、3Dプリンティングといった様々な製造プロセスの物理的な制約や、材料特性、コスト構造といった複合的な要素を理解し、設計案に織り込む能力を指します。いわば、熟練した製造技術者の知見がAIに組み込まれているようなものです。
この技術により、経験の浅い設計者でも、製造可能な高品質の設計を迅速に行えるようになります。また、ベテラン技術者は、煩雑な修正作業から解放され、より創造的で付加価値の高い業務、例えば新工法の開発や製品コンセプトの検討などに集中できるようになるでしょう。これは、技術承継や人材不足といった課題を抱える日本の製造現場にとっても、重要な意味を持つと考えられます。
最大80%の設計サイクル短縮が意味するもの
InfinitForm社は、このプラットフォームによって設計サイクルを最大80%短縮できるとしています。この数値は、単なる時間短縮以上の効果を示唆しています。設計の手戻りが減ることで、試作の回数やコストが大幅に削減されます。また、開発リードタイム全体が短縮されることで、変化の速い市場ニーズに迅速に対応し、製品をいち早く市場に投入することが可能になります。
特に、多品種少量生産や顧客ごとのカスタマイズが求められる今日の日本の製造業において、開発のスピードと効率は競争力の源泉です。設計の初期段階で製造の確度を高めることは、サプライチェーン全体のスムーズな連携を促し、量産立ち上げの垂直化にも寄与することが期待されます。
日本の製造業への示唆
今回のInfinitForm社の取り組みは、AI技術が設計と製造の関係性をいかに変革しうるかを示す好例です。日本の製造業がこの動きから得られる示唆は、以下の点に整理できるでしょう。
1. 設計プロセスの抜本的な見直し:
従来の部門ごとに最適化されたプロセスから、設計の初期段階に製造の知見をいかに組み込むかという、より統合的なプロセスへの転換が求められます。AIツールは、そのための強力な触媒となり得ます。
2. 熟練技術者のノウハウのデータ化:
「匠の技」や「暗黙知」とされてきた製造現場のノウハウを、いかに形式知化し、AIが活用できるデータとして蓄積していくかが今後の課題となります。現場の知見こそが、こうしたツールの競争力を左右する重要な資産になります。
3. 人材の役割の変化への対応:
AIとの協業を前提とした新しいエンジニアの役割を定義し、育成していく必要があります。設計者はより上流のコンセプト創出へ、製造技術者はプロセスの高度化やデータ活用へと、その専門性をシフトさせていくことになるでしょう。
こうしたAIエンジニアリングツールは、まだ発展途上の技術ではありますが、設計と製造の長年の課題を解決し、企業の競争力を大きく向上させる可能性を秘めています。自社の開発プロセスと照らし合わせながら、その動向を注意深く見守り、活用を検討していくことが重要です。


コメント