米国の金融機関の決算報告に関する記事は、一見すると製造業とは無関係に思えるかもしれません。しかし、その内容は事業を継続する上で極めて重要な「既存事業の減少と新規事業の創出」という普遍的な課題を示唆しています。
異業種の動向に見る、事業継続の普遍的課題
先日公開された米国の金融機関 F.N.B. Corp. の決算報告に関する記事では、事業の健全性について興味深い言及がなされていました。要約すると、「ローンの新規組成は堅調であるものの、既存ローンの早期返済などによる解約(チャーン)も発生しているため、事業を維持・成長させるには、常に高い水準の新規組成を継続する必要がある」という内容です。これは金融業界特有の話に聞こえるかもしれませんが、その本質は製造業における受注活動と生産計画にも深く通じるものがあります。
この構造を製造業に置き換えてみましょう。「ローンの新規組成」は「新規案件の受注や新規顧客の獲得」に相当します。そして、「既存ローンの解約」は、「顧客の生産計画変更による受注減、製品のモデルチェンジに伴う取引終了、あるいは競合他社への失注」など、既存取引の自然な減少と捉えることができます。
既存事業の「自然減」を直視する必要性
多くの工場では、長年にわたる取引関係にある顧客からのリピートオーダーが事業の基盤となっています。しかし、いかに安定した取引であっても、それが永続的に続く保証はありません。顧客側の事業戦略の転換、設計変更による内製化、より安価なサプライヤーへの切り替えなど、我々のあずかり知らぬところで取引が縮小・終了するリスクは常に存在します。これがいわゆる「事業の自然減」です。
現場レベルでは「最近、A社からのあの部品の注文が減ってきたな」と感じる程度の変化かもしれません。しかし、こうした小さな変化が積み重なり、気づいた時には工場の稼働率に深刻な影響を及ぼしていることがあります。経営層や工場長は、日々の生産に追われるだけでなく、こうした受注の「 churn(チャーン:顧客離れや取引減少)」を定量的に把握し、その傾向を常に監視することが求められます。
常に新規開拓のパイプラインを動かし続ける
前述の記事が示唆するように、この「自然減」を補い、さらに事業を成長させていくためには、それを上回るだけの新規受注活動を継続的に行っていく以外に方法はありません。重要なのは、業績が傾いてから慌てて新規開拓に乗り出すのではなく、事業が好調な時からでも常に一定のリソースを新規開拓に割り当て、活動を恒常化させておくことです。
これは単に営業部門だけの課題ではありません。技術部門は顧客の新たなニーズに応える新技術や新製品を開発し、製造部門は品質・コスト・納期(QCD)の改善を通じて既存顧客の満足度を高めると同時に、新規顧客への提案力を強化する。このように、全部門が連携して受注のパイプラインを維持・強化していく視点が不可欠と言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の異業種からの学びを、日本の製造業における実務的な示唆として以下に整理します。
1. 既存取引の「健全性」の定期的な評価
安定していると見なされている主力顧客との取引についても、依存度やリスクを定期的に評価することが重要です。顧客の事業動向や業界の変化を注視し、取引が縮小・終了する可能性を常に念頭に置いた事業計画を立てる必要があります。
2. 受注の「自然減」の定量的な把握
年間を通じて、失注、取引終了、製品ライフサイクルの終焉などによって、どれくらいの売上・利益が失われるのかを定量的に予測・把握する試みが有効です。この「自然減」の数値を明確にすることで、確保すべき新規受注の目標値がより具体的になります。
3. 新規開拓活動の「恒常的な仕組み化」
新規開拓を特定の担当者や時期に依存した活動にするのではなく、常に組織として取り組み続けるための仕組みを構築することが求められます。営業、技術、製造が連携し、市場のニーズや技術シーズを共有しながら、継続的に新たな受注機会を創出していく体制が理想的です。目先の生産計画をこなすだけでなく、数年先を見越した種まきを怠らないことが、持続的な成長の鍵となります。


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