米国のアパレル生産者ネットワーク(AAPN)が、繊維製造の基礎知識を体系的に学べる認定資格プログラムを開始しました。この動きは、業界全体で人材の基礎能力向上を目指すものであり、日本の製造業が直面する人材育成や技能伝承の課題を考える上で、重要な示唆を与えてくれます。
米国繊維業界における人材育成の新たな動き
米国の主要な業界団体であるアメリカズ・アパレル生産者ネットワーク(AAPN)が、「繊維製造の基礎(Foundations of Textile Manufacturing)」と題した新たな認定資格プログラムを開始したことが報じられました。このプログラムは、特に業界での経験が浅い若手人材を対象に、サプライチェーン全体で不可欠となる「製造リテラシー」を体系的に提供することを目的としています。
注目される「製造リテラシー」という考え方
記事の中で強調されている「製造リテラシー(Manufacturing literacy)」という言葉は、非常に示唆に富んでいます。これは、単に特定の機械操作や工程の技能を指すのではなく、原料から最終製品に至るまでの一連のプロセス、つまりサプライチェーン全体を理解する総合的な知識や能力を意味すると考えられます。例えば、繊維業界であれば、糸の種類、織り方、染色方法、縫製技術といった個別の知識が、最終的な製品の品質、コスト、納期、さらにはサステナビリティにどう影響するのかを理解する力です。
日本の製造現場では、長年OJT(On-the-Job Training)が人材育成の中心を担ってきました。熟練者から若手へと実践を通じて技能を伝承するこの方法は非常に有効ですが、一方で知識が担当工程に限定され、全体像を把握しにくいという側面もあります。サプライチェーンが複雑化し、顧客からの要求も高度化する現代において、自工程だけでなく、前後の工程や市場との繋がりを理解する「製造リテラシー」の重要性は、あらゆる業種で増していると言えるでしょう。
業界団体が主導する教育の意義
今回の取り組みが、一企業ではなく業界団体主導で行われる点も注目に値します。体系的な教育プログラムを自社単独で構築・維持するには、相当な経営資源が必要です。特に中小企業にとっては、その負担は決して小さくありません。業界団体が共通の教育プラットフォームを提供することで、企業規模にかかわらず、業界全体の知識レベルの底上げを図ることができます。
また、業界標準となる知識を身につけた人材が増えることは、企業間の連携をスムーズにし、サプライチェーン全体の効率化にも寄与する可能性があります。日本においても、各種業界団体が技能検定やセミナーを実施していますが、より体系的かつ実践的な知識習得の機会を業界全体でどう構築していくかは、今後の重要な課題です。
日本の製造業への示唆
今回の米国の事例は、日本の製造業にとっても他人事ではありません。以下に、我々が学び取るべき要点を整理します。
1. 技能伝承と体系的教育の両立
熟練者の経験や勘といった暗黙知をOJTで伝える伝統的な技能伝承は、日本のものづくりの強みです。これに加えて、サプライチェーン全体を俯瞰できる体系的な知識(形式知)を座学などで補完する仕組みが、変化に対応できる強い現場を育む上で不可欠となります。
2. サプライチェーンを理解する人材の育成
自社の技術や製品が、サプライチェーンの中でどのような役割を果たし、どのような価値を提供しているのかを理解できる人材は、将来の経営を担う上でも重要です。設計、購買、生産、品質管理、営業といった部門の垣根を越えて、共通の知識基盤を持つための教育機会を設けることが求められます。
3. 業界連携による人材育成基盤の強化
深刻化する人手不足を乗り越えるためには、一社単独での人材育成には限界があります。地域の企業連合や業界団体が連携し、共通の教育プログラムや研修施設を運営することは、業界全体の魅力を高め、持続可能な発展に繋がる有効な一手となり得るでしょう。


コメント