先日発表された米インテルの決算は、市場の期待を下回り、同社の株価は大きく下落しました。その背景には、単なる業績不振だけでなく、同社が威信をかけて進める製造技術の立て直し計画に対する市場の厳しい視線があります。本稿では、この一件から読み取れる最先端製造業の課題と、日本のものづくりへの示唆を解説します。
決算発表で浮き彫りになった製造への懸念
インテルの最新の決算報告と、それに続く株価の急落は、多くの市場関係者に衝撃を与えました。売上高や利益の見通しが市場予測に届かなかったことが直接的な引き金ですが、その根底には、同社の将来を左右する製造部門、特にファウンドリ(半導体受託製造)事業の収益性に対する根強い懸念が存在します。
CEOのパット・ゲルシンガー氏が主導する「IDM 2.0」戦略は、自社製品の製造能力を強化すると同時に、他社からの製造も請け負うファウンドリ事業を本格化させるという壮大な計画です。しかし、このファウンドリ事業は依然として大きな営業損失を計上しており、巨額の先行投資が収益に結びつくまでの道のりが険しいことを示しています。市場は、この計画の実現可能性、とりわけ技術的な進捗に対して、極めて慎重な見方をしていると言えるでしょう。
最先端プロセスの立ち上げという高いハードル
インテル復活の鍵を握るのが、「Intel 20A」や「Intel 18A」といった最先端の製造プロセスの確立です。これらは、業界のリーダーであるTSMCに技術的に追いつき、追い越すための重要なマイルストーンと位置づけられています。計画通りに技術を立ち上げ、高い歩留まりで量産できるかどうかが、自社製品の競争力とファウンドリ事業の成功を直接的に決定づけます。
しかし、近年の半導体製造は、微細化が極限に達し、EUV(極端紫外線)露光技術をはじめとする高度な装置の導入・運用が不可欠となっています。こうした新技術の導入は、プロセスの安定化に時間を要し、歩留まりの改善は一筋縄ではいきません。これは日本の製造現場でもよく経験することですが、新しい設備や工法を導入した際、安定稼働に至るまでには地道な条件出しと試行錯誤が繰り返されます。インテルが直面しているのは、まさにその最先端領域における産みの苦しみであり、わずかな遅れや問題が、事業計画全体への信頼を揺るがす事態に繋がっているのです。
製造業の根幹を問う「実行力」の重要性
インテルの事例は、壮大な戦略やビジョンを掲げること以上に、それを着実に実行する現場の製造能力がいかに重要であるかを改めて示しています。特に、半導体のような巨大な設備投資を必要とする産業では、計画と現実の乖離が経営に与える影響は計り知れません。顧客企業は、単に技術的な先進性だけでなく、約束された性能の製品を、約束された時期に、安定した品質で供給してくれるパートナーを求めています。この「供給責任」という観点から、長年にわたり安定した量産実績を積み重ねてきたTSMCの牙城を崩すことは、容易ではないのです。
インテルが再び「製造の巨人」としての信頼を取り戻すためには、技術ロードマップを確実に実行し、高品質な量産体制を構築できることを、具体的な成果をもって証明していく必要があります。これは、あらゆる製造業に通底する、品質と納期、そしてコスト(QDC)という基本に他なりません。
日本の製造業への示唆
今回のインテルの動向は、日本の製造業にとっても多くの実務的な示唆を含んでいます。以下に要点を整理します。
1. 技術ロードマップの現実性評価:
野心的な技術開発計画は重要ですが、その実現可能性を客観的に評価し、潜在的なリスクを織り込んだマイルストーン管理が不可欠です。特に、未知の要素が多い新技術の導入においては、計画の遅延を前提とした代替案やリカバリー計画の準備が求められます。
2. 巨額投資と収益化のバランス感覚:
大規模な設備投資は、短期的な財務を圧迫します。投資の回収計画について、市場や株主だけでなく、社内に対しても丁寧な説明とコンセンサス形成が重要です。キャッシュフローを意識した、段階的かつ現実的な投資戦略が経営の安定に繋がります。
3. 現場の実行力こそが競争力の源泉:
優れた戦略も、それを実現する現場の力がなければ画餅に帰します。日々の改善活動を通じて培われる生産技術、品質管理能力、そして安定稼働を実現するオペレーション能力こそが、顧客からの信頼を勝ち取るための最も重要な資産であることを再認識すべきです。
4. サプライチェーンにおける自社の立ち位置:
インテルの苦戦は、自社での一貫生産(垂直統合)の難しさを示すと同時に、特定の工程に特化する水平分業モデルの強さも浮き彫りにしました。自社のコア技術は何かを見極め、内製化(Make)と外部委託(Buy)の最適なバランスを常に問い続ける戦略的な視点が、今後の事業運営において一層重要になるでしょう。


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