DED-Arc(ワイヤーアーク式積層造形)における設計・製造・デジタル表現の統合 — 鋼材部品のケーススタディから学ぶ

global

金属3Dプリンティング技術の一つであるDED-Arc(ワイヤーアーク式積層造形)は、大型部品の製造や補修分野で注目を集めています。本稿では、鋼材部品を対象に、設計から製造、そしてデジタルデータによる評価までを一貫して検証した学術報告をもとに、その技術的な要点と日本の製造業における実務的な意義を解説します。

はじめに:DED-Arc技術とその位置づけ

DED-Arc(Directed Energy Deposition – Arc)は、ワイヤーアーク式積層造形(Wire Arc Additive Manufacturing: WAAM)とも呼ばれ、アーク溶接の技術を応用して金属ワイヤーを溶融させながら三次元形状を積層していく金属3Dプリンティングの一種です。パウダーベッド方式に比べて造形速度が速く、大型の部品製造に適しているという特長があります。一方で、寸法精度や表面粗さ、熱変形による内部応力の管理などが実用化における課題とされています。

今回ご紹介する研究は、このDED-Arc技術を用いて鋼材部品を製造する際に、設計段階から製造プロセス、そして完成品の特性評価、さらにはそのデジタル表現(デジタルツインの構築)までを包括的に調査したケーススタディです。単に「モノを作る」だけでなく、そのプロセス全体を科学的に解明し、データとして管理しようという試みは、今後の製造業のあり方を考える上で重要な示唆を与えてくれます。

設計から製造までの一貫したアプローチの重要性

本研究では、積層造形特有の設計思想(Design for Additive Manufacturing: DfAM)が重要であることを示唆しています。従来の切削加工や鋳造とは異なり、DED-Arcでは熱の入力と冷却が繰り返されるため、部品の内部に応力が発生しやすく、変形や割れの原因となり得ます。そのため、設計段階で熱の履歴を予測し、造形パスや積層順序を最適化することが品質を大きく左右します。

これは、日本の製造現場で長年培われてきた「すり合わせ」の思想とも通じるものがあります。設計部門が形状データを作成して終わりではなく、製造部門の知見を設計の初期段階からフィードバックし、一体となって製品開発を進める体制が、AMのような新しい技術を使いこなす上では不可欠と言えるでしょう。従来の分業体制を見直し、部門横断的な連携をより深化させる必要性を示しています。

デジタル表現とデジタルツインの構築

本研究のもう一つの重要な点は、「デジタル表現(Digital Representation)」に焦点を当てていることです。これは、造形された物理的な部品だけでなく、その製造プロセス中の各種センサーデータや、完成品の3Dスキャンによる形状データ、非破壊検査による内部品質データなどを統合し、物理世界と対になるデジタルモデル、すなわち「デジタルツイン」を構築することを意味します。

このデジタルツインを活用することで、以下のようなことが可能になります。

  • 品質のトレーサビリティ確保: 製品のどの部分が、どのようなプロセスパラメータで造形されたかを正確に追跡できます。
  • 性能予測: シミュレーションを通じて、実際の使用環境における部品の寿命や強度を予測できます。
  • プロセスの最適化: 蓄積されたデータをもとに、より品質が安定し、効率的な製造条件を見つけ出すための知見が得られます。

特に、一品一様の部品製造や補修が求められる現場において、個々の製品の品質をデータに基づいて保証できることは、大きな競争力となり得ます。

日本の製造業への示唆

この研究報告は、日本の製造業、特に多品種少量生産や大型部品の製造、保守・補修(MRO)事業に携わる企業にとって、多くの実務的なヒントを与えてくれます。以下に要点を整理します。

1. 新しい生産技術としてのAMの可能性
DED-Arcのような技術は、単なる試作品製作用のツールではありません。金型が不要で、材料ロスも少ないため、特に大型で複雑な形状の部品や、廃番になった補修部品などをオンデマンドで製造する「生産技術」としての可能性があります。従来の溶接技術やロボット技術に強みを持つ日本の企業にとっては、比較的導入のハードルが低い領域かもしれません。

2. 設計・製造・品質保証のプロセス革新
AM技術を最大限に活用するには、部門間の壁を取り払い、設計、製造、検査の各プロセスをデジタルデータで繋ぐ必要があります。本研究が示すように、設計段階から製造時の物理現象を考慮し、完成品の品質をデータで証明するという一貫した思想が、今後のものづくりの基本となるでしょう。

3. デジタル化の本質的な目的の再認識
DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれる中、単にITツールを導入するだけでなく、本研究のように「デジタルツインを構築して品質を保証し、プロセスを最適化する」といった具体的な目的を持つことが重要です。AMプロセスは、その性質上、非常に多くのデータを生成するため、データ活用の実践的な訓練の場としても適しています。

4. 人材育成と技術の地道な蓄積
こうした新しい技術を導入し、使いこなすためには、材料学、加工学、IT、センサー技術など、複合的な知識を持つ技術者の育成が不可欠です。また、すぐに成果が出なくとも、自社の製品や用途に合わせて地道に実験とデータ蓄積を続けることが、将来の競争力を築く上で最も確実な道となります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました