一見すると製造業とは無関係に思える映像制作の世界で、脚本から撮影リストを自動生成するツールが登場しました。この「設計情報から実行計画へ」という発想は、日本の製造業が抱える工程設計の属人化や効率化といった課題を解決する上で、重要な示唆を与えてくれます。
映像制作のワークフローを自動化する新しい潮流
近年、様々な業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中、クリエイティブな領域である映像制作の世界でも興味深い動きが見られます。その一つが、脚本(スクリプト)のテキストデータを解析し、撮影に必要なショットリストやスケジュール、機材リストといった具体的な制作計画を自動で生成するツールです。これにより、従来は監督や制作スタッフが経験に基づいて行っていた煩雑な準備作業が大幅に効率化され、制作管理も一元化されるようになります。
製造業における「設計から製造へ」のプロセスへの置き換え
この映像制作の事例は、そのまま日本の製造業の現場に置き換えて考えることができます。製造業において「脚本」に相当するのは、製品の3D CADデータや仕様書、BOM(部品表)といった設計情報です。そして「撮影計画」は、具体的な作業手順書や工程計画、使用する治具・工具リスト、品質管理項目を定めたQC工程表などに当たります。
つまり、このツールのコンセプトは「設計情報というインプットから、製造現場で必要となる実行計画や作業指示を自動生成する」という発想に他なりません。設計部門が作成したデジタルデータを元に、AIやルールベースのシステムが最適な加工方法、組立順序、検査手順などを自動で立案する世界観です。
日本の現場が抱える工程設計の課題
ご存知の通り、日本の製造現場では、設計図面から具体的な製造工程を計画するプロセスは、生産技術部門の熟練技術者の経験やノウハウに大きく依存している場合が少なくありません。彼らの頭の中にある暗黙知が、高品質・高効率なモノづくりを支えてきたことは事実です。
しかし一方で、このやり方は属人化を招きやすく、技術伝承が大きな課題となっています。また、多品種少量生産が主流となる中、新製品が立ち上がるたびに膨大な工数をかけて工程設計を行うことは、開発リードタイム短縮の足かせともなり得ます。設計変更が発生した際、関連する製造指示書や検査基準書を漏れなく迅速に改訂する作業も、現場の大きな負担となっています。
プロセス自動化がもたらす価値
もし、設計情報から製造工程を自動生成する仕組みが実現すれば、これらの課題は大きく改善される可能性があります。まず、工程設計に要する工数が劇的に削減され、製品開発のスピードアップに直結します。熟練者のノウハウは、判断基準や制約条件としてシステムに組み込むことでデジタル化・形式知化され、技術伝承の一助となるでしょう。
さらに、設計データと製造指示がデジタルで直結するため、設計変更が即座に現場の作業指示に反映され、手戻りや修正ミスといった無駄を削減できます。将来的には、設計段階で製造コストやリードタイムをシミュレーションし、より製造しやすい設計(DFM: Design for Manufacturability)を支援するツールへと発展していくことも期待されます。
日本の製造業への示唆
今回の映像制作ツールの事例は、日本の製造業に対して、以下のような実務的な示唆を与えてくれます。
1. 異業種のDX事例に学ぶ視点
一見無関係に見える業界のデジタル化の取り組みの中に、自社の課題解決のヒントが隠されていることがあります。特に「インプット情報からアウトプット(実行計画)を生成する」という構造は多くの業務に共通しており、水平展開できる発想の宝庫です。
2. 設計情報の構造化とリッチ化の重要性
工程設計を自動化する大前提として、インプットとなる設計情報がコンピュータで解釈可能な形で構造化されている必要があります。3D CADデータに、公差や材質、表面処理といった製造に必要な属性情報を付与していくMBD(Model-Based Definition)のような取り組みは、こうした将来の自動化を見据えた重要な布石となります。
3. 生産技術者の役割の再定義
工程設計のような定型的な業務が自動化されていくと、生産技術者の役割は、より高度で創造的な領域へとシフトしていくでしょう。例えば、自動化システムそのものを構築・改善する、新たな加工技術や生産方式を開発するといった、企業の競争力の源泉となる業務への注力が求められます。
4. スモールスタートからの実践
全社的な大規模システムを待つのではなく、まずは特定製品の特定の工程だけでも、Excelマクロや簡単なプログラムを用いて、BOMから作業指示書の一部を自動生成してみる、といった小さな一歩から始めることが重要です。現場レベルでの試行錯誤が、将来の大きなプロセス革新へと繋がっていきます。


コメント