米国の品質管理専門誌『Quality Magazine』が「製造業の次世代モデル」という示唆に富むテーマを掲げました。本稿ではこの言葉を切り口に、デジタル化やサステナビリティといった潮流の中で、これからの製造業、特に品質管理が果たすべき役割について考察します。
「製造業の次世代モデル」とは何か
米国の著名な品質管理専門誌である『Quality Magazine』が、ポッドキャストのテーマとして「Manufacturing’s Next Top Model(製造業の次世代トップモデル)」という興味深い言葉を提示しました。これは、単に新しい技術や手法を紹介するという次元を超え、製造業そのものの「あるべき姿」や「競争力の源泉」がどこに移行していくのかを問いかけているものと解釈できます。
これまで日本の製造業は、高品質な製品を効率的に生産する「良いものを、安く、早く」というモデルで世界をリードしてきました。しかし、グローバルな競争環境の変化、デジタル技術の急速な進展、そしてサステナビリティへの強い要請といった外部環境の変化は、私たちに従来の成功モデルからの進化を迫っています。次世代のモデルとは、これらの変化に対応し、新たな価値を創出する仕組みそのものを指していると言えるでしょう。
品質管理の役割の深化と拡大
このテーマが出典元が品質管理専門誌である点は重要です。これは、「次世代モデル」の核となる要素が「品質」の概念の進化にあることを示唆しています。従来の品質管理は、製造工程内での不良品をいかに減らすか、という「検査」や「工程管理」が中心でした。しかし、現代における品質の概念は、より広く、深くなっています。
具体的には、設計・開発段階から市場投入後、さらには廃棄・リサイクルに至るまでの製品ライフサイクル全体を見通した品質の作り込みが求められます。また、製品そのものの機能や性能だけでなく、顧客が製品を通じて得る体験(UX)や、環境負荷、サプライチェーンの透明性といった要素も、企業の品質を構成する重要な要素として認識されるようになっています。日本の製造業が培ってきたTQM(総合的品質管理)の思想を、この新しい次元で再構築することが課題となります。
デジタル技術が拓く、新たな品質の世界
次世代モデルの実現において、デジタル技術の活用は避けて通れません。IoTセンサーから収集される膨大なリアルタイムデータ、AIによる高度な異常検知や要因分析、デジタルツインを活用した製造プロセスの事前シミュレーションなどは、品質管理のあり方を根底から変える可能性を秘めています。
これまでの品質管理が、起きてしまった事象(結果)に対する管理であったとすれば、デジタル技術は「プロセスそのものの品質」をリアルタイムで最適化し、さらには将来起こりうる不具合を予測する「予知保全」や「品質予見」を可能にします。これは、日本の現場が誇る熟練技能者の「勘・コツ・経験」といった暗黙知をデータによって形式知化し、組織全体の能力として継承・発展させていく試みとも言えるでしょう。
サステナビリティという品質軸
現代の事業活動において、サステナビリティ(持続可能性)への配慮は、もはや単なるCSR活動ではなく、事業存続の根幹をなす要素です。これもまた、「広義の品質」の一つと捉えることができます。省エネルギーな生産プロセス、環境負荷の少ない材料の採用、製品の長寿命化設計、リサイクル性の向上などは、すべて製造業における品質活動の一環です。
サプライチェーン全体でのCO2排出量の可視化や、人権に配慮した調達活動の徹底なども、取引先や最終消費者から厳しく評価される時代です。こうした社会的な要請に応えることは、企業のブランド価値や信頼性という無形の品質を高め、結果として競争力に直結します。
日本の製造業への示唆
今回のテーマから、日本の製造業が今後取り組むべき要点と実務への示唆を以下に整理します。
1. 品質概念の再定義と全社的共有:
従来の「製品品質」の枠を超え、顧客体験、環境、社会性までを含む「事業全体の品質」という視点を経営層から現場まで共有することが第一歩です。自社の提供する「品質」とは何かを再定義し、目標を定める必要があります。
2. デジタル技術と現場力の戦略的融合:
日本の強みである現場の改善力(カイゼン)やボトムアップの活動は、今後も重要な競争力の源泉です。この現場力に、IoTやAIといったデジタルツールを組み合わせることで、データに基づいた、より高度で迅速な改善サイクルを回すことが可能になります。デジタルは現場を代替するものではなく、現場の能力を拡張するものであるという認識が重要です。
3. 新たな品質を担う人材の育成:
データを読み解き、製造プロセスや製品設計にフィードバックできる人材が不可欠になります。品質保証部門の担当者がデータサイエンスの素養を身につける、あるいは製造技術者がデータ活用のスキルを習得するなど、部門の垣根を越えた計画的な人材育成が急務と言えるでしょう。
4. サプライチェーン全体での価値創造:
品質、コスト、納期(QCD)の追求は、もはや自社工場内だけで完結するものではありません。主要なサプライヤーとデータを連携し、サプライチェーン全体で品質のトレーサビリティを確保したり、環境負荷を低減したりする取り組みが、新たな付加価値を生み出します。より強固で透明性の高いパートナーシップの構築が求められます。


コメント