海外の製造業における従業員意識調査から、高い定着率の裏に潜む燃え尽きやコミュニケーション不足といった課題が明らかになりました。本記事では、この調査結果を基に、日本の製造現場が向き合うべき人材マネジメントの要点を解説します。
調査の背景:海外の現場労働者の意識
近年、製造業における人材確保と定着は、国を問わず重要な経営課題となっています。そうした中、企業向け学習プラットフォームを提供するAxonify社が、米国、英国、オーストラリアの製造業を含む現場労働者2,500人以上を対象とした意識調査の結果を発表しました。この調査は、日本の製造業が自社の職場環境や人材育成を見直す上で、多くの示唆を与えてくれるものと言えるでしょう。
製造業従事者の高い忠誠心とその背景
調査結果で特に興味深いのは、製造業で働く従業員が、小売業や物流業といった他の現場労働者と比較して、現在の雇用主に対して高い忠誠心を示している点です。具体的には、製造業従事者の74%が「現在の雇用主に満足している」と回答し、58%が「今後12ヶ月以内に離職する可能性は低い」と答えています。これは、専門的な技能の習得や、チーム一丸となって製品を完成させるという仕事の性質が、従業員のエンゲージメントや帰属意識を高めている可能性を示唆しています。日本の製造現場においても、長年にわたり培われてきた「ものづくり」への誇りや、改善活動などを通じた仲間との連帯感が、従業員の定着に繋がってきた側面と通じるものがあるかもしれません。
高い忠誠心の裏に潜む、見過ごせない課題
しかし、この高い忠誠心に安住することはできません。調査は同時に、製造現場が抱える深刻な課題も浮き彫りにしています。これらの課題は、放置すれば生産性の低下や人材流出に直結しかねない重要なシグナルです。
1. 燃え尽き症候群(バーンアウト):
製造業従事者の43%が「燃え尽きを感じている」と回答しており、これは他の現場労働者(37%)よりも高い数値です。人手不足による業務負荷の増大、多品種少量生産への対応、度重なる生産計画の変更などが、心身の疲弊に繋がっていると推察されます。日本の現場でも、一人ひとりが担う役割が増え、多能工化が進む一方で、十分な休息や精神的なケアが追いついていないケースは少なくないでしょう。
2. 経営層と現場のコミュニケーション不足:
従業員の3分の1以上が、「経営層は現場の現実を理解していない」と感じていることも明らかになりました。日々生産目標や品質基準の達成に追われる現場と、経営数字や市場動向を重視する経営層との間には、意識の乖離が生まれやすいものです。トップダウンの指示が現場の実情と合わない、現場からの改善提案が十分に吸い上げられないといった状況は、従業員のモチベーションを著しく低下させる要因となります。
3. 安全性への懸念とテクノロジー導入の遅れ:
4人に1人が「仕事で怪我をしたり、安全でないと感じたことがある」と回答しています。これは、安全第一を掲げる多くの工場にとって、改めて襟を正すべき結果です。また、41%の従業員が「自分の仕事を楽にする技術があるのに、会社が導入してくれない」と感じています。DX推進が叫ばれる中、現場が本当に求めているのは、大規模なシステムよりも、日々の作業負担を軽減するような身近な技術やツールなのかもしれません。
4. キャリアアップへの不安:
多くの従業員が、現在の職場でのキャリアアップの機会が限られていると感じています。日々の業務をこなし、技術を磨いても、その先にどのようなキャリアパスが描けるのかが不透明であれば、将来への希望を持つことは難しくなります。技能の継承が課題となる中で、若手や中堅社員が目標を持って働き続けられるような道筋を示すことが求められています。
日本の製造業への示唆
今回の海外調査の結果は、日本の製造業にとっても決して他人事ではありません。従業員の高い忠誠心は、日本のものづくりの強みそのものですが、それに甘んじることなく、その裏に潜む課題に真摯に向き合う必要があります。以下に、本調査から得られる実務的な示唆を整理します。
1. 従業員の「声なき声」を聴く仕組みの強化:
従業員満足度調査のような形式的なものではなく、現場の負担感や人間関係、将来への不安といった「本音」を吸い上げるための対話の場が重要です。工場長やリーダー層が定期的に現場を回り、一人ひとりの従業員と直接対話する時間を設けることが、問題の早期発見に繋がります。
2. 現場目線でのテクノロジー投資:
DXや自動化への投資を検討する際は、「生産性向上」という指標だけでなく、「従業員の作業負担軽減」や「安全性の向上」といった観点を重視することが不可欠です。導入の意思決定プロセスに、実際にその技術を使う現場の意見を積極的に取り入れるべきでしょう。
3. キャリアパスの可視化と再構築:
従業員が自身の成長と将来を具体的にイメージできるよう、技能レベルに応じた等級制度や、資格取得支援、リーダー職への登用プロセスなどを明確化し、周知徹底することが求められます。多能工化や改善活動への貢献を、昇進や処遇に適切に反映させる評価制度の構築も重要です。
4. 経営層による現場理解の深化:
経営層は、定期的に、そして予告なしにでも製造現場に足を運び、自社の製品がどのように作られているのか、従業員がどのような環境で働いているのかを肌で感じることが不可欠です。現場の現実を知ることが、実情に即した的確な経営判断の第一歩となります。


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