ポルトガルの靴メーカーOlifel社は、統合生産管理システム「Visualgest」を導入し、工場内のデータを予防的・先行的なアクションに繋げる仕組みを構築しました。本記事では、この事例をもとに、データを事後分析から事前活用へと転換させるアプローチと、それが日本の製造現場にもたらす示唆を解説します。
はじめに – 異業種の事例から学ぶデータ活用の視点
昨今、製造業におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)やIoTの活用が叫ばれていますが、その具体的な進め方や効果については、多くの現場で模索が続いているのが実情ではないでしょうか。今回は、欧州の靴製造業という、我々とは異なる分野の事例を取り上げます。ポルトガルの靴メーカーOlifel社が導入した生産管理システム「Visualgest」は、単なるデータ収集にとどまらず、それをいかにして「先手を打つ」ための情報に変えるか、という点で示唆に富んでいます。
工場データを「予防的・先行的」な情報へ転換する
Olifel社が導入した「Visualgest」は、製造実行システム(MES)の一種と位置づけられます。このシステムの核心は、工場内の様々なデータを収集・統合し、それを「proactive(予防的・先行的)」な情報に変換する点にあります。これは、問題が発生してから原因を分析する「事後対応」ではなく、問題の兆候を捉えて未然に防いだり、変化に即応したりする「事前対応」への転換を意味します。日々の生産実績や品質データが、過去の記録として保管されるだけでなく、未来のアクションを導くための羅針盤となるのです。
統合管理がもたらす現場での具体的な効果
このシステムは、生産管理だけでなく、品質、メンテナンス、物流といった工場運営に関わる情報を一元的に管理します。これにより、現場では以下のような効果が期待できます。
1. リアルタイムでの進捗可視化と迅速な意思決定:
各工程の進捗状況がリアルタイムで可視化されることで、生産計画に対する遅れや生産能力のボトルネックを即座に把握できます。これにより、現場リーダーは応援人員の配置や段取り替えの指示など、具体的な対策を迅速に講じることが可能になります。
2. 品質データの蓄積とトレーサビリティの確保:
どの材料を使い、誰が、いつ、どのような条件で作業したかという情報が製品に紐づけられます。これにより、万が一品質問題が発生した際に、原因究明の時間が大幅に短縮されるだけでなく、影響範囲の特定も容易になります。蓄積されたデータは、将来の品質改善活動においても貴重な財産となります。
3. 設備稼働の監視と予防保全:
設備の稼働状況やエラー履歴を監視することで、故障の予兆を捉えることができます。これにより、「壊れてから直す」事後保全から、「壊れる前にメンテナンスする」予防保全への移行が促進され、突発的な設備停止による生産ロスを最小限に抑えることができます。
日本の製造現場における活用の視点
このような統合的な生産管理システムは、日本の大手製造業では既に導入が進んでいるかもしれません。しかし、重要なのはシステムの規模や機能の多さではなく、「データをいかにして現場の先手のアクションに繋げるか」という思想です。中小規模の工場においても、まずは特定のラインや重要な設備からデータ収集を始める「スモールスタート」が有効です。例えば、手書きの日報をデジタル化して進捗を共有する、あるいは安価なセンサーで設備の稼働時間を記録し、停止要因を分析するといった取り組みも、この思想に基づいた第一歩と言えるでしょう。目的を明確にし、現場が活用できる形に情報を加工・提供することが、データ活用の成否を分けます。
日本の製造業への示唆
今回のOlifel社の事例から、日本の製造業が学ぶべき要点と実務への示唆を以下に整理します。
【要点】
- データの「事後分析」から「事前活用」へ: 収集したデータを過去の記録としてだけでなく、未来の問題を予測し、未然に防ぐための情報として活用する視点が不可欠です。
- 部門横断での情報統合の価値: 生産、品質、保全といった個別の情報を連携させることで、初めて工場全体の最適化に向けた的確な意思決定が可能になります。サイロ化された情報のままでは、部分最適に陥りがちです。
- 現場の自律的な改善活動の促進: 現場の作業者やリーダーが、リアルタイムで正確なデータにアクセスできる環境は、彼らが自ら問題を発見し、改善策を立案・実行する文化を醸成します。
【実務への示唆】
まずは自社の工場において、「どのような情報があれば、もっと早く問題に気づき、先手を打てただろうか」という問いを立ててみることが重要です。必ずしも高価なシステム導入が前提ではありません。現在ある日報や各種記録を見直し、それらをデジタル化して共有するだけでも、現場の動きは大きく変わる可能性があります。データ活用の目的を「生産性向上」「品質安定」など具体的に定め、その達成のために必要な情報を定義し、できるところから収集・可視化を始めることが、持続的な現場改善への確実な一歩となります。


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