AM(3Dプリンタ)材料開発の新潮流:「プロセス」を活かす材料設計への転換

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アディティブ・マニュファクチャリング(AM)は、航空宇宙分野などで革新をもたらしてきましたが、その可能性は材料の制約によって限定されてきました。しかし近年、AM特有の製造プロセスを逆に利用して、優れた特性を持つ材料を「その場で」作り出すという、新しい研究開発アプローチが注目されています。

AMにおける材料の課題と現状

アディティブ・マニュファクチャリング(AM)、いわゆる3Dプリンティング技術が様々な産業で活用され始めて久しいですが、その普及を阻む一因として「材料の選択肢」が挙げられます。現在、AMで利用されている金属材料の多くは、元々、鋳造や鍛造といった伝統的な工法のために開発された合金を転用したものです。そのため、レーザー光などで金属粉末を急速に加熱・溶融・凝固させるAM特有のプロセスでは、材料が本来持つポテンシャルを最大限に引き出せているとは言えず、時には内部欠陥や特性のばらつきといった問題を引き起こすこともありました。現場の技術者からは、「使える材料が限られる」「カタログ通りの物性が出ない」といった声も聞かれます。

発想の転換:プロセスを材料設計に組み込む

こうした課題に対し、米国のローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)とマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らは、全く新しいアプローチを提唱しています。それは、AM特有の急激な熱サイクルを「制約」と捉えるのではなく、むしろ「望ましい材料特性を引き出すための積極的な手段」として活用するという考え方です。具体的には、AMのプロセス中に生じる複雑な熱履歴(溶融から凝固、冷却に至る温度変化)を精密に制御することで、材料の微細構造を意図通りに形成させようという試みです。これは、造形プロセス自体が、いわば高度な熱処理工程を兼ねるようなものと捉えることができます。このアプローチは、従来のように既存の材料をAMプロセスに「適合させる」のではなく、プロセスと材料を一体で設計するという、まさにパラダイムシフトと言えるでしょう。

シミュレーションが拓く次世代材料開発

この新しい材料設計アプローチの鍵を握るのが、高度なシミュレーション技術です。研究では、チタン合金やニッケル基超合金といった、航空宇宙やエネルギー産業で用いられる高性能材料を対象としています。プロセス中の熱の伝わり方や凝固の進み方をコンピュータ上で精密にモデル化し、どのようなプロセスパラメータ(レーザー出力、走査速度など)を適用すれば、どのような微細構造が形成されるかを予測します。そして、そのシミュレーション結果を実際の造形実験によって検証し、モデルの精度を高めていくというサイクルを繰り返します。この手法が確立されれば、従来工法では作製が難しかったような、高強度でありながら靭性にも優れた材料などを、AMによって直接造形できるようになる可能性があります。これは、部品性能の飛躍的な向上だけでなく、後工程である熱処理の簡略化や廃止による、製造リードタイムの短縮やコスト削減にも繋がるものと期待されます。

日本の製造業への示唆

今回の研究報告は、AMの活用を目指す日本の製造業にとって、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。

1. 材料とプロセスの統合的理解の重要性
AM技術の活用は、単に装置を導入して形状を作り出す段階から、プロセスを深く理解し、材料の性能を最大限に引き出す段階へと移行しつつあります。今後は、材料の組成だけでなく、造形中の熱履歴が最終製品の特性を決定づけるという視点が不可欠になります。これは、これまで日本の製造業が「すり合わせ」技術で培ってきた、工程と品質の関係性を深く追求する姿勢が活かせる領域とも言えます。

2. シミュレーション技術への投資
「プロセスを活かす材料設計」は、試行錯誤の実験だけでは成り立ちません。その根幹を支えるのは、物理現象を正確に再現するシミュレーション技術です。経営層は、AM活用において、ハードウェアだけでなく、こうしたCAE(Computer-Aided Engineering)などのソフトウェアや、それを使いこなす人材への投資の重要性を認識する必要があります。

3. オープンな連携の模索
最先端の材料開発は、一社単独で完結するものではありません。今回の研究が国立研究所と大学の連携で進められたように、材料メーカー、装置メーカー、そしてユーザーである製造業が、それぞれの知見を持ち寄り、大学や公的研究機関とも連携しながら開発を進めるエコシステムの構築が求められます。

AM技術は、その応用範囲を広げながら、より深い科学的知見に基づく進化の段階に入っています。この潮流を的確に捉え、自社の技術戦略に組み込んでいくことが、今後の競争力を左右する重要な鍵となるでしょう。

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