英国の公共放送BBCによる番組制作パートナーの公募事例は、一見すると製造業とは無関係に思えます。しかし、その背景にある「地域に根差したサプライヤーとの連携強化」という発想は、日本の製造業が直面するサプライチェーンの課題やイノベーション創出に対する重要な示唆を含んでいます。
異業種に見る、新たなパートナーシップの形
先日、英国の公共放送であるBBCが、看板番組の映像制作パートナーを特定の地域(北東イングランド)に拠点を置く制作会社から公募するという発表を行いました。特筆すべきは、過去のBBCとの取引実績を問わない、という条件を設けた点です。これは、特定の地域に眠る新たな才能や視点を発掘し、地域全体のクリエイティブ産業を活性化させようという明確な意図の表れと見て取れます。大手企業が、これまで取引のなかった地域の中小企業に対しても広く門戸を開くというこのアプローチは、業種は違えど、我々製造業にとっても示唆に富むものです。
日本の製造業におけるサプライチェーンの現状と課題
日本の製造業、特に地方に生産拠点を置く工場では、長年にわたり特定のサプライヤーとの固定的な関係性が築かれてきました。こうした関係は、安定した品質や納期の確保、「あうんの呼吸」での連携といった面で大きな利点があります。しかしその一方で、関係の固定化は、コスト競争力の低下や、新しい技術・工法を取り入れる機会の損失に繋がるという側面も否定できません。また、近年の自然災害の頻発や地政学的なリスクの高まりを受け、サプライチェーンの強靭化(レジリエンス)は経営の最重要課題の一つとなっています。特定のサプライヤーや地域に依存する構造は、こうした不測の事態に対して脆弱であると言わざるを得ません。
「灯台下暗し」を避けるための視点
サプライヤーの多様化や新規開拓というと、海外の安価なサプライヤーや、国内の著名な技術を持つ企業に目が向きがちです。しかし、BBCの事例は、もっと身近な場所にこそ可能性があることを示唆しています。自社の工場が立地する地域やその周辺に、優れた技術を持ちながらも、これまで接点のなかった中小企業が存在する可能性は十分に考えられます。いわゆる「灯台下暗し」の状態です。物理的な距離の近さは、密なコミュニケーションや迅速なトラブル対応を可能にし、共同での試作開発なども進めやすいという大きな利点があります。単なる「調達先の探索」という視点から一歩進んで、地域と共に成長する「共創パートナーの探索」という視点を持つことが、今求められているのではないでしょうか。
日本の製造業への示唆
今回の異業種の事例から、日本の製造業が実務レベルで取り入れるべき点を以下に整理します。
1. 地域サプライヤーの再評価と探索
既存のサプライヤー網に安住するのではなく、改めて自社の拠点が所在する地域の企業に目を向けることが重要です。地域の商工会議所や自治体、金融機関などが持つ情報を活用し、潜在的なパートナーとなりうる企業をリストアップし、その技術力や将来性を評価する地道な活動が、将来の強靭なサプライチェーンの礎となります。
2. 門戸を開く姿勢の明確化
「我々は新しいパートナーを探している」という姿勢を社外に明確に発信することも有効です。BBCのように、特定の技術課題や部品について、地域限定で解決策や提案を公募するような試みは、これまで出会えなかった企業との接点を生み出すきっかけとなり得ます。その際、「取引実績を問わない」という条件は、新規参入のハードルを下げ、多くの提案を集める上で鍵となります。
3. 「共創」を前提とした関係構築
サプライヤーを単なるコストと納期で評価する「発注先」としてではなく、共に課題解決や新製品開発に取り組む「パートナー」として捉え直す視点が不可欠です。地域のサプライヤーと定期的な技術交流会を開催するなど、対等な立場でコミュニケーションを図る場を設けることが、信頼関係の構築と新たなイノベーションの創出に繋がります。


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