VFX業界の「生産管理」に学ぶ、これからの工場運営のヒント

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大手VFXスタジオが「生産管理担当副社長」を募集しているという情報から、異業種における生産管理の役割を考察します。一見、無関係に思えるエンターテイメント業界の事例から、日本の製造業が直面する課題解決のヒントを探ります。

エンターテイメント業界における「生産管理」とは

先日、映画『ゲーム・オブ・スローンズ』などの視覚効果(VFX)で世界的に知られるドイツのVFXスタジオ「Pixomondo社」が、サウジアラビアのリヤド拠点において「生産管理担当副社長(Vice President, Production Management)」を募集しているという情報がありました。製造業に携わる我々にとって「生産管理」は馴染み深い言葉ですが、VFXのようなクリエイティブな業界では、どのような意味合いで使われているのでしょうか。

製造業における生産管理が、主にQCD(品質・コスト・納期)の最適化を目指し、モノの生産プロセス全体を効率的に管理する役割を指すのに対し、VFX業界における「プロダクション・マネジメント」は、よりプロジェクトマネジメントに近い意味合いを持ちます。映画や映像という「作品(プロジェクト)」を完成させるため、予算、スケジュール、投入するリソース(アーティスト、機材、ソフトウェアなど)、そして最終的な成果物の品質まで、制作に関わるあらゆる要素を管理・調整するのがその役割です。個々のアーティストの創造性を最大限に引き出しながら、プロジェクト全体を納期と予算内に収めるという、非常に高度なバランス感覚が求められる職務と言えるでしょう。

製造業の生産管理との共通点と相違点

この二つの「生産管理」には、明確な共通点と相違点が存在します。共通点は、言うまでもなく「制約の中で目標を達成する」という点です。定められた納期、限られた予算とリソース(人・設備・時間)をいかに最適に配分し、求められる品質の製品・作品を生み出すか、という根幹の思想は全く同じです。

一方で、その対象とするプロセスの性質に大きな違いがあります。製造業、特に量産品を扱う現場では、プロセスの「標準化」と「効率化」が極めて重要になります。業務を標準化し、繰り返し生産におけるムダを徹底的に排除することで、安定した品質とコスト競争力を実現します。これに対し、VFX制作は基本的に「一品モノ」の連続です。毎回異なる要求仕様、予期せぬ技術的課題、クリエイティブな試行錯誤など、不確実性の高い要素を多く含みます。そのため、管理手法も定型的なものではなく、状況に応じた柔軟な問題解決能力や、多様な専門性を持つスタッフ間の円滑なコミュニケーションを促す調整能力がより重視される傾向にあります。

日本の製造業の現場から見た考察

このVFX業界の事例は、現在の日本の製造業が置かれている状況を考える上で、示唆に富んでいるように思えます。かつての大量生産モデルから、多品種少量生産やマスカスタマイゼーションへと移行する中で、我々の現場も「一品モノ」に近い、プロジェクト型の生産形態が増えつつあります。新製品の立ち上げ、特注品の製造、あるいは生産ラインの大幅な変更など、定型業務の繰り返しだけでは対応できない場面が増えているのではないでしょうか。

こうした状況では、従来の標準化・効率化を追求する管理手法に加え、VFX業界のプロダクション・マネージャーのように、不確実な状況下で各部門や担当者の専門性を束ね、プロジェクトを完遂に導く能力が不可欠となります。それは、単なる進捗管理者ではなく、部門の垣根を越えたコミュニケーションのハブとなり、現場で発生する様々な課題を解決に導く調整役としての役割です。工場長や現場リーダーに求められるスキルも、まさにこの点にあると言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回の異業種の事例から、我々日本の製造業は以下の点を再認識し、実務に活かすことができると考えられます。

1. プロジェクトマネジメント視点の強化:
日々の定常的な生産管理に加え、新製品の立ち上げや改善活動などを一つの「プロジェクト」として捉え、その管理手法を取り入れることが有効です。ゴール、スコープ、リスクを明確にし、関係者を巻き込みながら計画的に推進する視点は、変化の激しい現代において不可欠です。

2. 現場の知恵と創造性を引き出すマネジメント:
VFX業界がアーティストの創造性を尊重するように、製造現場の技術者や技能者の持つ知見やアイデアをいかに引き出し、生産性向上や品質改善に繋げるかが重要です。トップダウンの指示だけでなく、現場からのボトムアップの提案を促し、それを組織として実現していく仕組みづくりが求められます。

3. 「調整役」としての生産管理の役割再定義:
生産管理部門や担当者の役割を、単なる数値や進捗の管理者と捉えるのではなく、設計、品質保証、購買、そして製造現場といった各部門をつなぐ「ハブ」であり、円滑な連携を促す「調整役」として再定義することが重要です。これにより、部門間の壁に起因する多くの問題を未然に防ぎ、組織全体のパフォーマンス向上に繋がります。

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