カナダの大手ゲーム開発会社Ubisoft Montrealが、「週4日勤務」を条件に生産コーディネーターの求人を出していることが注目されています。一見、製造業とは異なる世界の事例ですが、その背景にある考え方は、日本のものづくりの現場や経営にとっても重要な示唆を含んでいます。
はじめに:異業種に見る働き方の変化
昨今、働き方の多様化が社会的なテーマとなる中、先進的な取り組みとして「週4日勤務(週休3日制)」が注目されています。先日、世界的なゲーム開発会社であるUbisoftのモントリオール・スタジオが、「生産コーディネーター(Production Coordinator)」という職種を週4日勤務の条件で募集していることが明らかになりました。これは、クリエイティブ産業という専門性の高い分野において、労働時間と生産性の関係が見直されていることを示す象徴的な事例と言えるでしょう。
「生産コーディネーター」の役割と製造業との共通点
求人情報によれば、この職種の主な役割は「生産管理部門をサポートし、内部プロセスを確立・改善すること」「円滑な情報伝達を担保するための資料を調整・作成すること」などとされています。これは、日本の製造業における「生産管理」や「生産技術」の担当者が担う業務と非常に多くの共通点を持っています。製品(ゲームソフト)を定められた納期、予算、品質の範囲内で完成させるため、各部門間の調整や進捗管理、プロセスの標準化などを担う、いわばプロジェクトの中核を担う役割です。
重要なのは、このような専門的で、かつ他部署との連携が不可欠な職務が、週4日勤務という形態で遂行可能だと企業側が判断している点です。単なる定型業務ではなく、生産プロセス全体を俯瞰し、改善を主導する役割だからこそ、時間的な制約の中でいかに効率的に価値を生み出すかが問われます。
週4日勤務を可能にする背景とは
労働時間を2割削減してもなお、同等以上の成果を出すためには、相応の仕組みが不可欠です。この背景には、おそらく以下のような取り組みがあると推察されます。
第一に、徹底した業務のデジタル化と情報共有の仕組み化です。誰がいつ見てもプロジェクトの進捗状況がわかるような管理ツールや、非同期でも円滑なコミュニケーションが取れる環境が整備されていることが前提となります。これにより、会議時間の短縮や、担当者不在時の業務停滞を防ぐことができます。
第二に、業務プロセスの標準化です。個人のスキルや経験といった属人的な要素への依存を減らし、誰が担当しても一定の品質とスピードで業務が進められるよう、手順や判断基準が明確化されていると考えられます。これは、日本の製造業が得意としてきた「カイゼン」活動や標準作業書の思想と通じるものがあります。
日本の製造業における現実と可能性
もちろん、物理的なモノを扱い、24時間稼働の生産ラインを持つ工場も多い日本の製造業において、一律に週4日勤務を導入することは現実的ではないかもしれません。特に、現場で設備を操作したり、現物を確認したりする必要がある業務では、時間的な制約が大きな壁となります。
しかし、すべての部門で不可能というわけではないでしょう。例えば、設計、開発、生産技術、生産管理、品質保証といった間接部門では、リモートワークとの組み合わせも含め、より柔軟な勤務形態を検討する余地は十分にあります。また、多能工化が進んだセル生産方式の現場などでは、チーム単位で勤務スケジュールを調整することにより、同様の取り組みが可能になるかもしれません。
少子高齢化が進み、人材確保が経営の最重要課題となる中、多様な働き方の選択肢を用意することは、企業の競争力に直結します。優秀な人材を惹きつけ、長く活躍してもらうための施策として、勤務形態の柔軟化は避けて通れないテーマと言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のUbisoftの事例は、日本の製造業に携わる我々に、以下のような重要な視点を与えてくれます。
1. プロセスの標準化とデジタル化の推進
労働時間の長短にかかわらず、生産性を向上させるための基本は、業務プロセスの見直しにあります。属人性を排し、デジタルツールを活用して情報共有を円滑にすることが、柔軟な働き方を実現する土台となります。
2. 間接部門からの働き方改革の試行
全社一律での導入が難しい場合でも、まずは設計や生産管理といった間接部門から、時間あたりの生産性を高めるための試みを始めることが有効です。そこでの成功事例が、やがては製造現場の働き方を見直すきっかけにも繋がります。
3. 「時間」から「成果」への意識改革
「長く働くこと」が評価されるのではなく、「定められた時間内でいかに高い成果を出すか」という価値観への転換が、経営層から現場の従業員一人ひとりにまで求められます。これは、企業の文化そのものを変えていく地道な取り組みです。
4. 人材戦略としての多様な働き方の検討
多様なバックグラウンドを持つ優秀な人材を確保し、定着させる上で、働き方の柔軟性は強力な武器となり得ます。自社の事業内容や職務の特性を踏まえ、どのような選択肢を提供できるかを真剣に検討する時期に来ているのではないでしょうか。


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