一見すると無関係に思えるイベント業界の「プロダクションマネジメント」には、実は日本の製造業、特に多品種少量生産や受注生産における管理のヒントが数多く含まれています。本記事では、その共通点から、現場・サプライヤー・オペレーション管理の要諦を紐解きます。
はじめに:異業種から学ぶ生産管理の本質
英国のプロダクションサービス協会(PSA)が提供するトレーニング情報の中に、製造業に従事する我々にとっても興味深い示唆が含まれています。それは、コンサートや展示会といったイベントを成功に導く「プロダクションマネジメント」に関するものです。この分野では、現場設営、サプライヤー管理、そしてオペレーション全体を、企画段階である「事前準備」からイベント終了後の「事後評価」まで一貫して管理する能力が求められます。これは、製品の受注から設計、製造、納品、そしてアフターサービスまでを手掛ける日本の製造業、特にプロジェクト型で進むことの多い個別受注生産の現場と、その本質において多くの共通点を持っています。
生産管理の3つの柱:現場・サプライヤー・オペレーション
元記事では、生産管理の要諦として「現場(sites)」「サプライヤー(suppliers)」「オペレーション(operations)」の3つを挙げています。これは、我々の製造現場に置き換えても、そのまま通じる普遍的な原則と言えるでしょう。
1. 現場管理:これは単に自社工場内の管理に留まりません。顧客先での据付工事や、現地での調整作業など、製品が最終的に価値を発揮する場所まで含めた広義の「現場」を管理する視点が重要です。各現場の状況は常に変動するため、計画通りに進めるための段取り力と、不測の事態に対応する柔軟性が同時に求められます。
2. サプライヤー管理:部品や材料の調達先だけでなく、加工を依頼する協力工場や、特殊な技術を持つ外部パートナーも重要な「サプライヤー」です。彼らは単なる発注先ではなく、プロジェクトを共に成功させるためのパートナーに他なりません。品質、コスト、納期の管理はもちろんのこと、密な情報共有と信頼関係の構築が、サプライチェーン全体のパフォーマンスを大きく左右します。
3. オペレーション管理:設計、購買、製造、検査、出荷といった一連の業務プロセス(オペレーション)が、淀みなく流れるように管理することが求められます。特に、複数のプロジェクトが同時並行で進む工場では、各工程の進捗状況を正確に把握し、ボトルネックを特定してリソースを最適に配分する能力が、生産性向上の鍵となります。
「事前準備」から「事後評価」までの一貫した管理プロセス
イベント業界で「pre-production to post-event(事前準備からイベント後まで)」という言葉が使われるように、製造業においても、生産プロセスは一貫した流れとして捉える必要があります。設計や部品手配といった「生産準備段階」の質が、後工程の効率や製品品質を決定づけることは、多くの現場技術者が経験的に理解していることでしょう。
さらに見落とされがちですが重要なのが、「事後評価」のプロセスです。一つの製品やプロジェクトが完了した際に、計画と実績の差異を分析し、成功要因や失敗要因を組織の知識として蓄積することが不可欠です。この振り返り、いわゆる「ポストモーテム」を通じて得られた教訓を次の生産活動に活かしてこそ、組織としての生産管理能力は継続的に向上していくのです。
日本の製造業への示唆
今回の情報から、日本の製造業が改めて認識すべき要点と実務への示唆を以下に整理します。
1. プロジェクトマネジメント視点の強化:
特に個別受注生産や多品種少量生産においては、一つひとつの製品やロットを独立した「プロジェクト」として捉え、QCD(品質・コスト・納期)を管理する視点が有効です。各プロジェクトの責任者を明確にし、計画、実行、監視、終結という一連のプロセスを意識的に回すことが求められます。
2. サプライチェーンを「パートナーシップ」として再構築:
サプライヤーや協力会社との関係を、単なる価格と納期の交渉相手としてではなく、共に価値を創造するパートナーとして捉え直すことが重要です。より深いレベルでの情報共有や技術交流は、予期せぬトラブルへの対応力を高め、サプライチェーン全体の強靭化に繋がります。
3. 形式知化による組織学習能力の向上:
個々の担当者の経験や勘に頼るだけでなく、プロジェクト完了ごとの振り返りを制度化し、得られた知見を報告書やデータベースといった「形式知」として蓄積・共有する仕組みを構築することが不可欠です。これにより、ベテランのノウハウが若手に継承され、組織全体の生産管理レベルが底上げされます。


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