航空宇宙産業などを筆頭に、大型かつ重量のある複雑形状部品の寸法精度要求はますます高まっています。こうしたニーズに応えるため、測定機器メーカーは高剛性・高精度な大型三次元測定機(CMM)の開発を進めており、製造現場における品質保証のあり方に変化をもたらそうとしています。
大型・重量部品における品質保証の課題
ジェットエンジンのケーシング、発電用タービンのブレード、大型プレス金型など、基幹産業を支える製品には、大型かつ重厚な部品が数多く使用されます。これらの部品は、最終製品の性能や安全性を左右する重要部品であるため、極めて高い寸法精度と信頼性が求められます。しかし、その大きさと重量ゆえに、従来の測定手法では品質保証に多くの課題を抱えていました。
例えば、長尺のノギスやハイトゲージ、定盤を用いた手作業での測定は、測定者のスキルによって結果がばらつきやすく、再現性の確保が困難です。また、複雑な形状を持つ部品の全容を把握するには膨大な時間と工数を要し、生産のボトルネックとなることも少なくありませんでした。こうした背景から、大型・重量部品を、効率的かつ高精度に測定できるソリューションが求められてきました。
高剛性構造を持つ三次元測定機の役割
こうした課題に対する一つの有力な解が、高剛性な門型(ブリッジタイプ)構造を持つ大型の三次元測定機(CMM)です。英国のLK Metrology社が提供する「Maxima」シリーズなども、こうした潮流を代表する製品群と言えるでしょう。この種の測定機は、主に以下のような特徴を備えています。
まず、セラミック製ビームや高剛性フレームを採用することで、測定機自体のたわみを最小限に抑え、数トンにも及ぶ重量物を搭載しても安定した測定精度を維持します。これにより、ワークを設置した状態でもμm(マイクロメートル)オーダーの精度を保証することが可能となります。
また、広い測定範囲を持ちながら、接触式のタッチプローブだけでなく、レーザースキャナのような非接触プローブを搭載できる点も重要です。これにより、複雑な自由曲面を持つ部品の形状を短時間でデジタルデータ化し、設計データ(3D CAD)との照合(カラーマップ比較など)を容易にします。これは、単なる寸法検査にとどまらず、加工工程への迅速なフィードバックやリバースエンジニアリングへの応用も視野に入れた動きです。
工場環境への適応と自動化への貢献
近年の大型三次元測定機は、恒温室のような特別な環境だけでなく、一般的な工場フロアへの設置も想定した設計がなされています。温度変化による測定機の伸縮をリアルタイムで補正する機能を備えることで、環境変化に左右されにくい、安定した測定を実現します。これは、測定のために部品を恒温室へ移動させる手間と時間を削減し、生産ラインに近接した場所でのインライン・ニアライン測定を可能にする上で重要な技術です。
測定プロセスの自動化も大きな流れです。ロボットによるワークの搬送・設置から、事前にプログラムされた測定の実行、そして結果のレポート出力までを無人で行うシステムも登場しています。これは、人手不足が深刻化する日本の製造現場において、検査工程の省人化と24時間稼働を実現する上で、非常に大きな意味を持つと言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
大型・重量部品の高精度測定技術は、特定の先進産業だけのものではありません。日本の製造業が強みを持つ建設機械、産業機械、エネルギー関連設備、大型金型といった分野においても、その重要性はますます高まっています。本件から得られる実務的な示唆を以下に整理します。
1. 品質保証の戦略的見直し
大型部品の測定が、未だに属人的な手作業に依存していないか、また、それが納期の遅延や品質のばらつきの原因となっていないか、自社の品質保証プロセスを再点検することが求められます。最新の測定技術は、単なる検査コストの削減だけでなく、製品の付加価値向上と顧客からの信頼獲得に直結する戦略的投資と捉えるべきです。
2. 測定データの活用範囲の拡大
三次元測定機によって得られる詳細なデジタルデータは、合否判定に用いるだけではその価値を十分に活かせません。加工データの分析、工作機械の精度補正、摩耗した部品の再現など、設計から製造、メンテナンスに至る製品ライフサイクル全体でデータを活用する視点が不可欠です。いわゆる「デジタルツイン」を構築する上での重要な情報源となります。
3. 投資対効果の多角的な評価
大型測定機への投資は決して小さくありません。しかし、その効果を評価する際には、直接的な人件費や工数の削減だけでなく、「測定リードタイム短縮による機会損失の削減」「品質クレーム減少による補償コストの削減」「高精度を謳うことによる新規受注の獲得」といった、間接的・長期的な効果も視野に入れて総合的に判断することが重要です。
大型・重量部品の製造は、多くのノウハウが求められる領域です。そこに高精度な測定技術を組み合わせることで、日本の製造業は今後もグローバル市場において高い競争力を維持していくことができるでしょう。


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