米陸軍が、金属3DプリンタメーカーVelo3D社との連携を通じて、地上戦闘車両のサプライチェーン強化に乗り出しました。この動きは、防衛という極めて高い信頼性が求められる分野においても、積層造形(AM)技術が補修部品の供給や旧式装備の維持といった喫緊の課題を解決する手段として本格的に検討されていることを示しています。
背景:深刻化する補修部品のサプライチェーン問題
長期間にわたり運用される機械や設備において、補修部品の安定供給は極めて重要な経営課題です。特に、鋳造や鍛造によって製造される部品は、サプライヤーの減少や海外移転、あるいは金型の老朽化などにより、必要な時に必要な数を調達することが年々困難になっています。これは米陸軍の地上戦闘車両においても例外ではなく、従来の製造方法に依存したサプライチェーンの脆弱性が指摘されていました。
こうした部品は、一度に必要となる数量が少ないため、再生産のたびに高いコストと長いリードタイムが発生します。結果として、大量の予測在庫を抱えるか、あるいは欠品による稼働停止リスクを許容するかという、厳しい選択を迫られるのが実情です。日本の製造業においても、旧式の産業機械やプラント設備を抱える企業にとって、これは決して他人事ではないでしょう。
積層造形(AM)がもたらす「オンデマンド生産」という解決策
今回の米陸軍の取り組みは、こうした課題に対し、Velo3D社の金属積層造形(AM)技術、いわゆる金属3Dプリンタを適用するものです。AM技術の最大の利点は、物理的な金型や治具を必要とせず、部品の3Dデータさえあれば、必要な時に必要な数だけを直接製造できる点にあります。
これにより、以下のような変革が期待できます。
- リードタイムの劇的な短縮:金型の手配や輸送が不要となり、数ヶ月単位であった納期が数週間、あるいは数日単位にまで短縮される可能性があります。
- 在庫コストの削減:部品を物理的な在庫として保管するのではなく、「デジタルデータ」として保管する「デジタルインベントリ(デジタル倉庫)」という考え方が可能になります。これにより、保管費用や在庫管理コスト、廃棄ロスを大幅に削減できます。
- 廃番部品への対応:製造メーカーが生産を終了した部品(オブソリート部品)であっても、現物をリバースエンジニアリングして3Dデータ化すれば、オンデマンドで再現することが可能です。これは、古い設備の延命や安定稼働に大きく貢献します。
Velo3D社の技術は、特にサポート構造を最小限に抑えながら複雑な内部構造や薄肉形状を造形できる点に強みがあり、従来の製法では作れなかった高性能な代替部品を開発できる可能性も秘めています。
伝統的製法との共存と現実的な活用
もちろん、AM技術が全ての製造を置き換えるわけではありません。数十万個単位の大量生産においては、依然としてプレスや鋳造といった伝統的な製法にコストや生産スピードの面で優位性があります。また、材料の種類や、確立された品質保証プロセスの観点からも、既存製法が適している場面は数多く存在します。
重要なのは、AM技術を「伝統的製法の代替」としてだけでなく、「補完」する技術として捉え、その特性を最大限に活かせる領域で戦略的に活用していく視点です。今回の米陸軍の事例は、まさに「少量・多品種・不定期」な需要が発生する補修部品の供給網において、AM技術がその真価を発揮することを示唆しています。
日本の製造業への示唆
今回の米陸軍とVelo3D社の連携は、日本の製造業にとっても多くの示唆を含んでいます。自社の事業に置き換えて、以下の点を検討する価値があるでしょう。
1. サプライチェーンの脆弱性評価と対策
地政学的リスク、サプライヤーの高齢化や廃業、自然災害など、現代のサプライチェーンは多くの不確実性を抱えています。特定のサプライヤーや製造方法に依存している重要部品はないか、改めて洗い出し、AM技術による内製化や調達先の複線化をリスク対策の一環として検討することが重要です。これは、事業継続計画(BCP)の観点からも有効なアプローチです。
2. サービスパーツ事業の変革可能性
製品の保守・サービス部門において、補修部品の在庫管理は長年の課題です。AM技術を活用したオンデマンド生産体制を構築できれば、在庫圧縮によるキャッシュフローの改善だけでなく、顧客への迅速な部品供給によるサービス品質の向上にも繋がります。これは、単なるコスト削減に留まらず、顧客満足度を高め、新たな収益機会を生み出す可能性を秘めています。
3. 技術導入に向けた現実的なステップ
いきなり大規模な設備投資に踏み切るのではなく、まずは自社の製品群の中でAM化のメリットが大きい部品(例:調達リードタイムが長い、在庫コストが高い、旧式で入手困難)を特定し、外部のサービスビューローなどを活用して試作・評価から始めるのが現実的です。その過程で、設計ノウハウ(DfAM)、品質保証体制の構築、そしてAM技術を使いこなす人材の育成といった、本格導入に必要な知見を蓄積していくことが成功の鍵となります。


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