2026年USMCA見直し:米国自動車生産の国内回帰は加速するか

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2026年に予定されているUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の見直しを前に、米国内での自動車生産を増やすべきだという政治的な動きが強まっています。特に、協定内の賃金ルールを活用してメキシコから米国へ生産を移管させようという議論は、北米にサプライチェーンを持つ日本の製造業にとっても無視できない動きと言えるでしょう。

USMCA見直しの機運と米国内の政治的動向

NAFTA(北米自由貿易協定)に代わり2020年に発効したUSMCAは、6年ごとに協定内容を見直すことが定められており、最初の見直しが2026年に迫っています。この節目を前に、米国内では協定の運用、特に自動車分野に関する条項をより米国に有利な形に修正すべきだとの声が高まっています。

特に、オハイオ州選出のバーニー・モレノ上院議員は、この見直しを機に米国内での自動車組立を増やすべきだと強く主張しています。その背景には、長らく米国の製造業を支えてきたラストベルト(錆びついた工業地帯)の雇用を守り、国内の製造業基盤を強化したいという政治的な意図があります。この動きは、一議員の意見に留まらず、今後の米国の通商政策の方向性を示唆している可能性があります。

焦点となる「労働価値比率(LVC)」

生産地を米国へ誘導するための具体的な手段として注目されているのが、USMCAの「労働価値比率(LVC: Labor Value Content)」規定です。これは、自動車およびその部品が協定の恩恵(無関税など)を受けるためには、生産工程の一定割合(現在は40〜45%)が、時給16ドル以上の高賃金地域で行われなければならない、と定めたものです。

この規定は、実質的に低賃金労働力が豊富なメキシコでの生産に一定の制約を課し、米国やカナダでの生産を促すことを目的としています。モレノ上院議員らが主張しているのは、2026年の見直しでこのLVCの基準をさらに引き上げる、あるいは運用を厳格化することで、メキシコに拠点を置く自動車・部品メーカーに米国への生産移管を迫るという戦略です。これは、単なる政治的なスローガンではなく、協定の具体的な条項を梃子にした現実的な圧力となり得ます。

北米サプライチェーンへの影響

現在の北米の自動車産業は、米国、メキシコ、カナダの3カ国間で緊密な分業体制が築かれています。特にメキシコは、豊富な労働力と地理的な近接性を活かし、多くの自動車部品サプライヤーが集積する重要な生産拠点となっています。日本の自動車メーカーや部品メーカーも、メキシコに多数の工場を構え、このサプライチェーンに深く組み込まれています。

もしUSMCAの見直しによってLVCの要求が厳格化されれば、企業は関税優遇を維持するために生産・調達戦略の見直しを迫られることになります。具体的には、メキシコで生産している部品の一部を米国に移管したり、米国製の部品の調達比率を高めたりといった対応が必要になるかもしれません。これは、工場の新設やラインの移管といった大規模な投資判断に繋がる可能性もあり、生産コストの上昇要因となることも懸念されます。

日本の製造業への示唆

今回のUSMCA見直しを巡る動きは、北米で事業を展開する日本の製造業、特に自動車関連企業にとって重要な示唆を含んでいます。以下に実務的な観点からの要点を整理します。

1. サプライチェーンのリスク再評価:
北米に生産拠点を有する企業は、メキシコ拠点の位置づけを含め、サプライチェーン全体の脆弱性を再評価する必要があります。特定の国・地域への過度な依存が、通商政策の変更によって大きなリスクとなり得ることを改めて認識し、生産拠点の分散や調達先の複線化といった対策を検討すべきでしょう。

2. 原産地規則への精通と対応準備:
LVCをはじめとするUSMCAの複雑な原産地規則について、正確な理解が不可欠です。規則の変更が自社の製品コストや関税負担にどのような影響を与えるかをシミュレーションし、迅速に対応できる体制を整えることが求められます。これには、部品表(BOM)と各部品の原産地情報を紐づけて管理するシステムの高度化も含まれます。

3. 地政学リスクの経営計画への織り込み:
今回の動きは、米国の保護主義的な政策の一環と捉えることができます。特に2024年秋の米大統領選挙の結果によっては、この傾向がさらに強まる可能性も否定できません。為替変動や関税だけでなく、こうした政治・通商政策の動向を、中期経営計画や事業継続計画(BCP)における重要なリスクファクターとして織り込む必要があります。

4. 長期的視点での拠点戦略の見直し:
短期的なコスト効率だけでなく、通商環境の変動リスクや供給網の強靭性といった観点から、北米における最適な生産・調達体制を長期的な視座で再検討する良い機会と捉えることもできます。EV化の進展に伴うバッテリーサプライチェーンの構築と合わせ、将来を見据えた戦略的な拠点配置がこれまで以上に重要になります。

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