米国のメモリ大手マイクロン・テクノロジーが、韓国の競合他社による不公正な価格設定を訴え、米国政府に調査を要請したと報じられました。この動きは、DRAMなどのメモリ製品に対する新たな関税措置につながる可能性があり、世界の半導体サプライチェーンに新たな波紋を広げています。
背景:メモリ市場の厳しい競争と米国の動き
米国のメモリメーカーであるマイクロン・テクノロジーが、韓国のサムスン電子とSKハイニックスが、政府からの不当な補助金によってDRAMを不当に安い価格で販売しているとして、米国商務省と国際貿易委員会に調査を申し立てました。これは、半導体市場における価格競争の激しさを改めて浮き彫りにするものです。
ご存知の通り、半導体メモリ市場は「シリコンサイクル」と呼ばれる好不況の波が激しい業界です。巨額の設備投資が不可欠である一方、需給バランスの変動によって価格が大きく乱高下します。今回のマイクロン社の申し立ては、こうした厳しい事業環境の中、自国の産業を保護し、公正な競争環境を確保したいという米国の強い意志の表れと見ることができます。
想定される「メモリ関税」とその影響
もし今回の調査によって、韓国メーカーによる不公正な取引慣行が認定された場合、米国政府は相殺関税などの対抗措置を講じる可能性があります。具体的には、韓国から輸入されるDRAM製品に対して追加の関税が課されることになります。
これが現実となれば、サムスンやSKハイニックスのDRAMは米国市場での価格競争力を失うことになります。そしてその影響は、メモリメーカーだけに留まりません。サーバー、PC、スマートフォン、自動車など、DRAMを基幹部品として使用するあらゆる製品の製造コストに跳ね返ってくる可能性があります。我々日本のエレクトロニクス関連メーカーにとっても、部材調達コストの上昇という形で直接的な影響が及ぶ懸念があります。
地政学リスクとしてのサプライチェーン管理
今回の動きは、単なる企業間の競争問題としてではなく、米中対立を軸とした国家間の技術覇権争いという、より大きな文脈で捉える必要があります。米国はCHIPS法などを通じて、半導体の国内生産能力の強化を国家戦略として推進しています。自国の半導体産業を保護し、サプライチェーンの脆弱性を克服しようとする一連の流れの中に、今回の関税措置の検討も位置づけられるでしょう。
これは、特定の国や地域に重要部材の供給を依存することのリスクを改めて示唆しています。これまで効率性を最優先に構築されてきたグローバルなサプライチェーンが、地政学的な要因によって分断・再編される動きは、今後さらに加速する可能性があります。生産拠点の立地や調達先の選定において、こうした政治的・経済的なリスクを織り込むことが、これまで以上に重要になっています。
日本の製造業への示唆
今回の米国の動きは、日本の製造業、特に半導体を多用するエレクトロニクス業界にとって、看過できない重要な変化を示唆しています。以下に要点を整理します。
1. サプライチェーンにおける地政学リスクの常態化
半導体のような戦略物資の調達は、もはや純粋な経済合理性だけで判断できるものではなくなりました。国家間の政策や対立が、直接的に部品の供給や価格に影響を及ぼす時代であることを再認識し、自社のサプライチェーンのリスク評価を常時更新していく必要があります。
2. 部品コスト上昇への備え
メモリ関税が発動されれば、DRAMの市場価格に影響が及ぶことは避けられません。調達部門は、価格変動の可能性を念頭に置いた予算計画や代替サプライヤーの検討を進めるべきです。また、コスト上昇分を最終製品の価格にどう反映させるかという経営的な課題にも直面する可能性があります。
3. 調達先の多様化と国内生産の再評価
特定の大手メモリメーカーや特定の国への依存度が高い場合、そのリスクは計り知れません。改めて自社の調達ポートフォリオを見直し、供給元の多様化(マルチソース化)を徹底することが急務です。同時に、今回の件は、日本国内での半導体生産能力を強化する動きの重要性を裏付けるものとも言えるでしょう。中長期的には、国内で安定的に調達できる体制の構築が、事業継続における強力な競争優位性につながる可能性があります。


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