ニュージーランドで50年以上の歴史を持つ製造業が経営難に陥った事例が報じられました。大手企業との長年の取引実績があっても安泰ではないという事実は、我々日本の製造業にとっても重要な教訓を含んでいます。
事例の概要:50年の歴史を持つ製造業の蹉跌
先日、ニュージーランドのオークランドに拠点を置くAccord Precision社が、深刻な経営難に陥ったと報じられました。同社は50年以上にわたり、世界的な大手企業向けに製品を供給してきた実績を持つ、いわゆる老舗の製造業者です。長年の歴史と優良な顧客基盤がありながら経営危機に至ったという事実は、製造業における事業継続の難しさを改めて浮き彫りにしています。
報道されている情報は限られており、経営難に至った直接的な原因は詳らかではありません。しかし、このような事例は決して対岸の火事ではなく、我々日本の製造業が自社の状況を省みる上で、多くの示唆を与えてくれるものと考えられます。
老舗企業が陥りやすい経営リスク
長年の歴史を持つ製造業は、安定した事業基盤を持つ一方で、いくつかの構造的なリスクを抱えやすい傾向があります。今回の事例を機に、考えられる主なリスクを整理してみましょう。
1. 特定顧客への過度な依存
大手企業との長年の取引は、安定した収益源であると同時に、経営上のリスクにもなり得ます。いわゆる「一本足打法」の状態では、その顧客企業の業績悪化や方針転換、あるいは担当者の交代といった些細な変化が、自社の経営を根底から揺るがす事態に直結します。安定した関係に安住し、新規顧客の開拓を怠っていると、環境が変化した際に打つ手がなくなってしまいます。
2. 技術・設備の陳腐化
過去の成功体験や、確立された生産方式への固執は、時として技術革新の足かせとなります。減価償却が終わった古い設備を使い続けることで目先のコストを抑えることはできても、長期的には生産性や品質、エネルギー効率の面で競争力を失っていきます。デジタル技術(IoT、AIなど)の活用や、より高効率な生産設備への更新といった戦略的な投資判断が遅れることは、静かに企業の体力を蝕んでいきます。
3. 市場環境の変化への対応遅れ
サプライチェーンのグローバル化、新興国企業の台頭、サステナビリティへの要求の高まりなど、製造業を取り巻く環境は常に変化しています。特に近年は、地政学リスクの高まりや為替の急変動など、予測が困難な変化も頻発しています。こうした外部環境の変化を的確に捉え、自社の事業戦略やサプライチェーンを柔軟に見直すことができなければ、どれほど優れた技術を持っていても、事業の継続は困難になります。
事業継続に向けた不断の見直し
こうしたリスクに対応するためには、経営層から現場のリーダーまでが、常に自社の事業を客観的に見つめ直す姿勢が不可欠です。具体的には、以下のような取り組みが求められます。
まず、顧客ポートフォリオを定期的に評価し、特定の顧客や業界への依存度が高まっていないかを確認することが重要です。その上で、既存技術を応用できる新たな市場や、次世代の柱となる新規事業の開拓を計画的に進める必要があります。
また、設備投資については、単なる更新と捉えるのではなく、「未来への投資」という視点を持つことが肝要です。生産性の向上はもちろん、多品種少量生産への対応、省人化、品質の安定化など、明確な目的意識を持った投資計画を立て、実行していくことが求められます。
そして、サプライチェーンの強靭化(レジリエンス)も待ったなしの課題です。特定地域からの調達への依存を見直し、仕入先を複数化(デュアルソーシング)するなど、不測の事態においても生産を継続できる体制を平時から構築しておく必要があります。
日本の製造業への示唆
今回のニュージーランドの事例は、日本の多くの製造業、特に長い歴史を持つ中小企業にとって、示唆に富むものです。最後に、我々が実務において心に留めておくべき点を整理します。
- 「昨日までの常識」を疑う: 長年の実績や大手との取引は、企業の強みであると同時に、変化を妨げる足かせにもなり得ます。自社の事業基盤が、現在の市場環境においても本当に盤石であるかを常に問い直す姿勢が重要です。
- リスクの可視化と棚卸し: 顧客構成、技術の優位性、設備の老朽化、サプライチェーンの脆弱性といった経営リスクを定期的に洗い出し、客観的に評価する仕組みを持つことが求められます。
- 変化に対応できる組織力: 市場の変化に対応するためには、経営判断のスピードだけでなく、現場がそれに応えることのできる柔軟性や技術力が不可欠です。技術の継承と並行して、新しい知識やスキルを学ぶ人材育成への投資を怠ってはなりません。
- 未来に向けた戦略的投資: 目先の利益確保に追われるだけでなく、5年後、10年後を見据えた設備投資や研究開発を継続することが、持続的な成長の鍵となります。厳しい経営環境であっても、未来への投資の重要性を経営層が理解し、社内にメッセージとして発信し続けることが不可欠です。
歴史と実績は誇るべき財産ですが、それに安住することなく、常に変化し続ける覚悟を持つこと。それこそが、不確実な時代において事業を継続させていくための唯一の道と言えるでしょう。


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