韓国アグリバイオ企業i2BCの事例に学ぶ、社会課題解決型ビジネスと生産体制

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世界的な課題であるフードロス削減に、独自のコーティング技術で挑む韓国のアグリバイオスタートアップ「i2BC」。同社の技術と事業モデルは、日本の製造業、特に化学・食品関連分野における新たな事業機会を示唆しています。本稿では、その取り組みと組織体制を解説します。

i2BC社とは:農産物の鮮度維持に特化した技術系企業

i2BC社は、韓国を拠点とするアグリバイオ(農業生命工学)分野のスタートアップ企業です。同社が注力しているのは、収穫後の農産物の鮮度を長期間維持するための技術開発です。世界的に年間約13億トンもの食料が廃棄される中、その多くを占める青果物の「ポストハーベストロス(収穫後損失)」の削減は、喫緊の社会課題となっています。i2BC社は、この課題に対し、独自の技術で解決策を提供しようとしています。

中核技術「イオン結合コーティング」の仕組み

同社の中核技術は、「イオン結合コーティング」と呼ばれるものです。これは、天然由来のミネラル成分などを含んだ液体を農産物に噴霧または浸漬することで、表面に目に見えないほど薄い保護膜を形成する技術です。この保護膜が、農産物からの水分の蒸発を防ぎ、外部からの腐敗菌の侵入を抑制します。また、作物の成熟を促進するエチレンガスの発生も抑える効果があるとされています。これにより、冷蔵設備がない環境下でも、鮮度を従来より長く保つことが可能になります。

日本の製造現場から見ると、この技術は、既存の化学技術を農業という異分野に応用した好例と言えるでしょう。特殊な大規模設備を必要とせず、収穫現場で簡便に処理できる点は、従来の低温貯蔵やCA(Controlled Atmosphere)貯蔵といった大掛かりな手法に比べて、導入コストや運用面での優位性を持つ可能性があります。また、人体に安全な成分を使用している点も、食品を扱う上で重要な要素です。

研究開発から生産・販売までの一貫体制

元記事の情報によれば、i2BC社は研究開発(R&D)チーム、生産管理チーム、そして営業・管理チームで構成されています。これは、技術シーズを実用化し、事業として成立させるための堅実な組織体制と言えます。特に、スタートアップの段階から「生産管理チーム」を明確に設置している点は注目に値します。

優れた技術も、安定した品質で、かつ適切なコストで量産できなければ事業にはなりません。ラボスケールでの成功と、工場での量産化の間には、しばしば「死の谷」と呼ばれる大きな隔たりが存在します。同社が生産管理を重視していることは、開発段階から量産化を見据え、品質の安定性や製造プロセスの最適化に取り組んでいる姿勢の表れと推察されます。これは、我々日本の製造業が長年培ってきた「モノづくり」の思想とも通じるものがあります。

日本の製造業への示唆

i2BC社の事例は、日本の製造業、特に経営層や技術開発、生産管理に携わる我々にいくつかの重要な示唆を与えてくれます。

1. 社会課題を起点とした事業開発
フードロスというグローバルな社会課題の解決を事業の核に据えています。自社の持つコア技術を棚卸しし、SDGsやサステナビリティといった社会的な要請と結びつけることで、新たな事業機会を創出できる可能性を示しています。

2. 異分野への技術応用
イオン結合という基礎的な化学技術を、農業というフィールドに応用した発想は、自社の技術ポートフォリオを見直す上で参考になります。これまで自社がターゲットとしてこなかった市場に、既存技術を応用・展開できないか、多角的な視点で検討する価値は大きいでしょう。

3. 生産体制の早期構築の重要性
優れた研究開発の成果を、確実に事業の柱へと育てるためには、量産化と品質保証を担う生産管理部門の役割が不可欠です。開発の初期段階から製造現場の視点を取り入れる「コンカレント・エンジニアリング」の考え方は、スタートアップだけでなく、大企業の新規事業開発においても同様に重要です。

4. サプライチェーン全体への価値提供
この技術は、生産者から加工業者、流通業者、そして最終消費者に至るまでのサプライチェーン全体の品質維持に貢献します。自社の製品がバリューチェーンの中でどのような付加価値を生み出すのか、より広い視野で事業を捉えることの重要性を示唆しています。

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