工場の安定稼働は、製造業における永遠の課題です。本稿では、既存の監視カメラ(CCTV)システムを活用し、AIで設備の異常を早期検知することで計画外ダウンタイムを削減する、現実的かつ効果的なアプローチについて解説します。
計画外ダウンタイムという根深い課題
製造現場において、設備の予期せぬ停止、すなわち計画外ダウンタイムは、生産機会の損失、復旧コストの発生、そして納期遅延による顧客信頼の低下など、経営に深刻な影響を及ぼします。これまで、多くの工場では定期的なメンテナンス(時間基準保全)や、振動・温度センサーなどを用いた状態基準保全によって、この問題に対応してきました。しかし、コストのかかる専用センサーの設置は重要設備に限られることが多く、また、人間の目視による日常点検には限界があるのも事実です。
監視カメラ映像をAIで解析するということ
そこで新たな選択肢として注目されているのが、工場に既に設置されている監視カメラ(CCTV)とビジョンAIを組み合わせた異常検知システムです。これは、カメラが捉える映像をAIが24時間365日休むことなく解析し、異常の「予兆」を捉える仕組みです。例えば、機械からのわずかな発煙、作動油の微量な漏れ、通常とは異なる部材の滞留、計器類の異常な値などを、AIが人間よりも早く、そして客観的に検知します。高価な専用センサーを追加導入するのではなく、既存のインフラを有効活用できる点が、このアプローチの大きな特長と言えるでしょう。
どのような異常を検知できるのか
ビジョンAIによる検知対象は多岐にわたります。具体的な例をいくつかご紹介します。
設備の異常予兆: 加工機や搬送装置から発生する煙や蒸気の初期段階、配管からの液体漏れ、ベルトコンベアの蛇行や緩みといった、重大な故障につながる前の微細な変化を捉えることが可能です。これにより、事後保全から予知保全への移行を、より広範囲の設備で推進できます。
工程の異常: 部品の供給が滞っている、コンベア上で製品が詰まっている、といった生産プロセス上の問題をリアルタイムに検知し、即座に現場へ通知します。これにより、手戻りや生産効率の低下を未然に防ぐことにつながります。
安全管理への応用: ヘルメットや安全帯の未着用、危険区域への立ち入りといった作業者の不安全行動を検知し、警告を発することも可能です。設備の安定稼働は、安全な作業環境があってこそ実現されるものであり、この観点からも貢献が期待されます。
導入にあたっての留意点
一方で、この技術を導入する際には、いくつかの現実的な側面を考慮する必要があります。まず、既存カメラの解像度や設置場所、工場の照明条件などがAIの検知精度に影響を与える可能性があります。また、自社の設備や工程に特有の異常を検知させるためには、AIモデルに対して現場の状況を学習させる「チューニング」の工程が必要になる場合が少なくありません。導入を検討する際は、技術提供企業と協力し、自社の課題や環境に最適な形でシステムを構築していく視点が不可欠です。
日本の製造業への示唆
本稿で解説したCCTVベースのビジョンAIは、日本の製造業が直面する課題解決の一助となり得ます。最後に、実務への示唆を3点に整理します。
1. 低コストで始める予知保全の第一歩:
全ての設備に高機能センサーを設置するのは現実的ではありません。まずは既存の監視カメラを活用し、過去にトラブルが頻発した設備や、停止時の影響が大きい重要工程からスモールスタートで試行してみる価値は十分にあります。これにより、費用対効果を見極めながら、データに基づいた保全活動へとシフトしていくことができます。
2. 熟練者の「気づき」を形式知化するツールとして:
ベテラン作業員は、設備のわずかな音の変化や見た目の違和感から異常を察知します。ビジョンAIは、こうした「暗黙知」の一部を映像データとして捉え、形式知化する試みと捉えることもできます。AIが検知した予兆に対して、現場の知見を加えて判断することで、組織全体の設備管理能力の底上げが期待できます。
3. 目的の明確化が成功の鍵:
最も重要なのは、「AIを導入すること」が目的にならないようにすることです。「どの設備の、どのような原因によるダウンタイムを、何時間削減したいのか」というように、解決したい課題を具体的に定義することが、技術を有効に活用するための第一歩となります。目的が明確であれば、カメラの選定やAIの学習方針も自ずと定まってくるはずです。


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