先日、カナダの食品工場で従業員が機械に巻き込まれて死亡するという痛ましい事故が報じられました。この種の災害は、日本の製造現場にとっても決して他人事ではなく、改めて安全対策の基本に立ち返る契機とすべきものです。
海外で発生した痛ましい巻き込まれ事故
報道によれば、カナダ・マニトバ州南部の食品製造工場で、42歳の男性従業員が機械に引き込まれて死亡する事故が発生しました。詳細は調査中とのことですが、製造現場で起こりうる最も重大な災害の一つが、現実のものとなってしまいました。このような事故の報に接するたび、私たちは自社の現場の安全を再確認する必要性を痛感させられます。
製造現場における「巻き込まれ」災害のリスク
機械の回転体や可動部に身体や衣服が接触し、引きずり込まれる「巻き込まれ」は、製造業における典型的な重篤災害です。特に、ローラー、コンベア、攪拌機(ミキサー)、ギア、チェーンなど、回転・往復運動を行う機械設備は、常にこの種の危険を内包しています。日本の労働安全衛生規則においても、機械の危険箇所への覆いや囲いの設置、運転開始時の合図などが厳しく定められており、これらは安全管理の基本中の基本と言えます。
事故の多くは「非定常作業」で発生する
注目すべきは、こうした重篤な事故の多くが、通常の生産運転中ではなく、清掃、点検、修理、調整、トラブル対応といった「非定常作業」の際に発生しているという事実です。日常的な作業ではないため、手順が標準化されていなかったり、危険箇所に通常より接近する必要があったり、あるいは生産を急ぐあまり安全装置を一時的に無効化してしまったりと、リスクが増大する傾向にあります。今回の事故が発生した食品工場においても、衛生管理のために機械の分解・清掃作業が頻繁に行われていた可能性が考えられ、そうした非定常作業に潜む危険性について、改めて目を向ける必要があります。
安全対策の要諦「ロックアウト・タグアウト(LOTO)」
非定常作業時の安全を確保するための最も確実な手法の一つが、「ロックアウト・タグアウト(LOTO)」です。これは、機械の修理や清掃を行う際に、その機械の動力源(電気、油圧、空圧など)を確実に遮断し、作業中に第三者が誤って起動させることがないよう、スイッチ等に物理的に施錠(ロックアウト)し、作業中であることを示す札(タグアウト)を掲示する一連の手順を指します。日本では「施錠・表示」として知られていますが、この手順が形骸化していたり、「自分は大丈夫」といった慣れや過信から省略されたりすることで、悲劇的な事故につながるケースが後を絶ちません。手順を定めているだけでなく、なぜそれが必要なのかという本質的な理解を、現場の全作業員に浸透させることが不可欠です。
安全文化の醸成は経営層の責務
個人の注意喚起やヒューマンエラー対策だけでは、労働災害を根絶することはできません。安全は、組織全体で取り組むべき文化として醸成されるべきものです。経営層や工場長が安全を最優先事項とする強いリーダーシップを発揮し、リスクアセスメントの実施、安全手順の標準化と文書化、継続的な教育訓練、そして安全対策への投資を惜しまない姿勢を示すことが求められます。現場からのヒヤリハット報告を奨励し、それを組織の学びに変えていく仕組みも、生きた安全活動には欠かせません。
日本の製造業への示唆
今回の海外事例は、私たち日本の製造業関係者にとって、自社の安全管理体制を見直すための貴重な機会となります。以下の点を参考に、現場の総点検を実施されることを推奨します。
1. 非定常作業のリスクアセスメントの徹底: 清掃、メンテナンス、金型交換、トラブル対応といった非定常作業の手順を一つひとつ見直し、潜在的な危険性(特にエネルギー源の遮断に関するリスク)を洗い出し、対策を講じているかを確認する。
2. LOTO(ロックアウト・タグアウト)手順の再検証と遵守: 自社のLOTO手順が現実的で、かつ全ての従業員に正しく理解・実行されているかを検証する。鍵やタグの管理方法も含め、形骸化していないか現場で確認することが重要。
3. 機械の安全装置の機能点検: インターロック、ライトカーテン、両手操作式ボタン、緊急停止ボタンなどが、設計通りに正しく機能するかを定期的に点検する。生産性向上のために意図的に無効化(バイパス)されていないかどうかの監査も必要。
4. 継続的な安全教育の実施: 過去の事故事例やヒヤリハット事例を共有し、危険感受性を高めるための教育を定期的に行う。特に、経験の浅い作業員や、他部署からの応援者への教育は重点的に実施する。
5. 経営層による安全へのコミットメント表明: 安全が生産性や品質と同等、あるいはそれ以上に重要であるというメッセージを、経営層が繰り返し現場に発信する。安全パトロールへの参加や、安全活動へのリソース配分を通じて、その姿勢を具体的に示すことが現場の意識を変える上で不可欠である。


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