ウォッカで有名なStoli Groupの米国法人が連邦破産法第7章の適用を申請し、事業を清算することになりました。この一件は、グローバルに事業を展開する日本の製造業にとって、地政学リスクやブランドイメージ管理の重要性を改めて問いかける事例と言えるでしょう。
概要:Stoli社米国法人、事業清算へ
世界的に知られるスピリッツブランド「Stoli」(旧ストリチナヤ)を展開するStoli Groupが、米国内の販売を担う法人2社について、連邦破産法第7章(Chapter 7)の適用を申請したと発表しました。Chapter 7は事業再建を目指すChapter 11とは異なり、事業を清算し、資産を売却して債権者に分配する手続きです。これにより、同社の米国における直販体制は事実上終了することになります。ただし、これはあくまで米国法人のみの措置であり、Stoli Group本体が経営破綻したわけではありません。
背景にある「複合的なショック」
今回の破産の背景には、複数の深刻な要因が重なった「複合的なショック」が存在します。一つは、ロシアによるウクライナ侵攻に端を発する地政学リスクです。Stoliはラトビアで生産されており、ロシアの企業ではないにもかかわらず、「ストリチナヤ」というロシアを強く想起させるブランド名が仇となりました。世界的なロシア製品へのボイコットの煽りを受け、売上が急激に落ち込んだのです。ブランド名を「Stoli」に変更するなどの対策を講じましたが、一度定着したイメージを覆すことは困難でした。
もう一つの要因は、米国市場におけるウォッカ需要そのものの変化です。市場全体の成長が鈍化する中で、消費者の嗜好が特定の人気ブランドに集中する傾向が強まり、競争が激化していました。地政学的な逆風と、市場環境の悪化という二つの大きな波が同時に押し寄せたことが、米国事業の継続を困難にしたと考えられます。
ブランドの出自とイメージ管理の難しさ
本件は、製品の品質や実際の生産国とは無関係に、ブランドが持つ歴史的背景や名称そのものが経営上のリスクになり得ることを示しています。特にグローバル市場においては、ブランド名やデザインが、特定の国や地域の政治的・文化的文脈において、作り手の意図しない形で解釈される可能性があります。日本の製造業においても、海外展開する際には、自社のブランドが現地でどのように受け止められているか、また特定の政治的イメージと結びつけられるリスクがないかを、より慎重に評価する必要があるでしょう。優れた製品であっても、ブランドイメージの毀損が致命的な結果を招くという、厳しい現実を浮き彫りにした事例です。
日本の製造業への示唆
今回のStoli社の事例は、決して遠い国の酒造メーカーだけの話ではありません。グローバルにサプライチェーンを構築し、世界市場で製品を販売する日本の製造業にとって、多くの実務的な示唆を含んでいます。
第一に、地政学リスクの再評価です。米中対立や中東情勢など、世界は常に不安定な要素を抱えています。自社のサプライチェーンにおいて、特定の国や地域への依存度(調達・生産・販売)が高すぎないか、改めて点検することが求められます。また、カントリーリスクだけでなく、自社ブランドが意図せず特定の政治的文脈と結びつけられる「イメージリスク」についても、常に注意を払う必要があります。
第二に、サプライチェーンと販売網の強靭化(レジリエンス)です。特定の市場や販売チャネルに過度に依存する体制は、今回のような予期せぬ事態が起きた際に脆弱性を露呈します。販売地域の多角化や、代替となる生産・調達ルートの確保など、事業継続性を高めるための具体的な施策を、平時から検討しておくことの重要性が増しています。
最後に、複合的な危機への備えです。地政学リスクと市場の変化が同時に発生したように、現代の事業環境では複数の危機が連鎖・複合して発生することが常態化しています。個別のリスクシナリオに対応するだけでなく、複数の脅威が同時に降りかかってくる「複合危機」を想定した事業継続計画(BCP)の策定と、それに基づいた実践的な訓練が、あらゆる企業にとって不可欠と言えるでしょう。


コメント