ブリティッシュ・アメリカン・タバコ社、南アフリカ工場閉鎖へ – 不正品市場の拡大が製造拠点の存続を脅かす

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英大手たばこメーカーのブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)社が、南アフリカでの製造を終了する方針を固めました。この決定の背景には、国内市場の約75%を不正品が占めるという異常事態があり、正規の製造事業が成り立たなくなったことが挙げられています。この一件は、海外拠点の運営における市場環境のリスクを浮き彫りにしています。

市場の75%が不正品、事業継続が困難に

ウォール・ストリート・ジャーナルが報じたところによると、英大手たばこメーカーのブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)社は、南アフリカにおける製造事業を終了する決定を下しました。同社の関係者はその理由について、「南アフリカのたばこ市場の約75%が不正品と推定される状況下で、国内での製造を継続することは採算が合わなくなった」と説明しています。

市場の大半が、正規のルートを経ずに流通する安価な製品(密輸品や非課税品など)に置き換わってしまうという事態は、製造業の事業基盤そのものを揺るがします。品質管理や法令遵守、そして納税といった正規メーカーが負うべきコストを負担しない不正品が市場に溢れることで、公正な競争環境が失われ、最終的には工場閉鎖という厳しい判断に至ったものと考えられます。これは、単なる一企業の経営判断というだけでなく、進出先の市場の健全性がいかに重要であるかを示す事例と言えるでしょう。

海外生産拠点が直面する「市場の質」というリスク

日本の製造業もまた、グローバルに生産拠点を展開しています。その際、一般的には人件費や部材の調達コスト、物流網、そして市場規模といった要素が重視されます。しかし今回のBAT社の事例は、それらの要素が満たされていても、「市場の質」、すなわち法治が行き届き、公正な商取引が保証されているかどうかという点が、事業の継続性を左右する極めて重要なリスクファクターであることを示唆しています。

特に、ブランド価値や信頼性が競争力の源泉となる製品(例えば、自動車や二輪車の純正部品、電子部品、化粧品、医薬品など)を扱う企業にとって、模倣品や不正品の流通は深刻な問題です。それは単に売上機会を損失するだけでなく、粗悪な模倣品が原因で事故が発生した場合、正規メーカーのブランドイメージが大きく毀損される恐れすらあります。現地の法規制やその執行状況、商慣行といった、数字には表れにくいカントリーリスクの評価が、今後ますます重要になるでしょう。

サプライチェーン全体でのリスク管理の重要性

この問題は、生産拠点だけの問題ではありません。製造した製品が顧客に届くまでのサプライチェーン全体に影響を及ぼします。正規の販売代理店や流通網が、安価な不正品の流入によって経営的な打撃を受け、販売網そのものが脆弱化してしまう可能性も考えられます。

海外で事業を展開する際には、信頼できる現地パートナーの選定はもちろんのこと、製品が最終消費者に届くまでの流通過程を厳格に管理し、不正品が介在する余地をいかに無くしていくかという視点が求められます。市場の監視体制を構築し、必要に応じて現地の法執行機関と連携して模倣品対策を講じるなど、より踏み込んだ対応が必要となるケースも少なくないでしょう。

日本の製造業への示唆

今回のBAT社の南アフリカ工場閉鎖のニュースは、グローバルに事業展開する日本の製造業にとって、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。実務に落とし込むべき要点を以下に整理します。

1. 海外進出・拠点運営におけるリスク評価の深化
進出先の評価において、市場規模や成長率といったマクロ指標だけでなく、不正品・模倣品市場の実態、法執行の信頼性、汚職の度合いといった「市場の健全性」に関する質的な評価をより重視する必要があります。これらの情報は、事業計画や投資判断の精度を大きく左右します。

2. サプライチェーンと販売網の管理強化
製品が工場から出荷された後の流通過程についても、自社の管理範囲と捉える必要があります。トレーサビリティの確保や、信頼できる販売パートナーとの連携強化を通じて、自社の製品が正規ルートで流通していることを確認し、ブランド価値を守る体制を構築することが重要です。

3. 事業継続計画(BCP)への反映
政情不安や自然災害だけでなく、「市場環境の急激な悪化」も事業継続を脅かす重大なリスクとして認識すべきです。特定国における不正品市場の急拡大といったシナリオを想定し、生産拠点の縮小や撤退、他拠点への生産移管といった選択肢を予め検討しておくことが、有事の際の迅速な経営判断に繋がります。

4. 業界や政府と連携した市場環境の改善
不正品の問題は、一企業の努力だけで解決することが困難な場合が多々あります。現地の業界団体や、日本の政府機関(JETROや大使館など)と連携し、進出先政府に対して法整備や取り締まりの強化を働きかけるといった、より大局的なアプローチも不可欠です。

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