一見、製造業とは無関係に思える舞台芸術の世界。しかし、その「プロダクションマネジメント」の求人情報には、我々の生産管理や工場運営に通じる、普遍的かつ重要な原則が示されています。
舞台芸術における「プロダクションマネジメント」
先日、米国の高等教育機関向けの求人サイトに掲載された「ダンス・プロダクション&マーケティングマネージャー」という職務内容が、我々製造業に携わる者にとっても興味深い示唆を与えてくれます。その職務には、「すべてのダンス公演やツアーにおける、企画から本番まで(end-to-end)のプロダクションを主導し、あらゆる技術的・デザイン的要素を監督する」と記されています。これは、製造業における生産管理やプロジェクトマネジメントの役割と、驚くほど多くの共通点を持っています。
舞台公演という一つの「作品」を創り上げるプロセスは、まさに我々が製品を市場に送り出すまでのプロセスと重ね合わせることができます。公演日時は「納期」、舞台セットや照明・音響は「技術仕様」、そして観客を魅了するパフォーマンスは「製品品質」に相当します。プロダクションマネージャーは、これらすべての要素を統合し、定められた予算と期間の中で最高の成果を出すことに責任を負うのです。これは、Q(品質)・C(コスト)・D(納期)を追求する製造現場の使命そのものと言えるでしょう。
専門家集団を束ね、全体最適を追求する役割
プロダクションマネージャーは、照明、音響、衣装、舞台美術といった各分野の専門家たちをまとめ上げ、演出家が描くビジョンを具現化していきます。マネージャー自身がすべての技術に精通している必要はありませんが、各要素が最終的な作品の品質にどう影響するかを理解し、専門家間の調整を行い、プロジェクト全体を俯瞰的に管理する能力が求められます。これは、設計、生産技術、製造、品質保証、購買といった多様な部門が連携して一つの製品を造り上げる、現代の製造業の姿と酷似しています。
日本の製造現場では、部門間の壁、いわゆる「サイロ化」が課題となることが少なくありません。各部門が自身の専門領域で部分最適を追求した結果、全体として歪みが生じてしまうケースです。舞台芸術のプロダクションマネージャーの在り方は、こうした課題に対する一つの答えを示唆しています。つまり、特定の技術領域に閉じるのではなく、製品が顧客に届けられるまでの一連のプロセス(End-to-end)を見渡し、部門間の連携を促しながら全体最適を追求する管理者の重要性です。
プロセス全体を一つの「作品」として捉える視点
「プロダクション」という言葉が示す通り、彼らの仕事は単なる作業管理ではありません。様々な要素を組み合わせて、付加価値の高い一つの「作品」を創造する活動です。この視点を我々の現場に持ち帰ってみるとどうでしょうか。日々の生産活動を、単なるタスクの連続としてではなく、設計思想や顧客への想いを最終製品という形に結実させるための、一貫した創造的プロセスとして捉え直すことができます。
このような視点を持つことで、個々の工程の意味や、他部門との連携の重要性に対する理解が深まります。そして、単に仕様書通りにモノを作るだけでなく、より良い製品を生み出すための改善提案や工夫が、現場から自発的に生まれる土壌が育まれていくのではないでしょうか。
日本の製造業への示唆
今回の異業種の事例から、我々日本の製造業は以下の点を再認識することができます。
1. プロジェクトマネジメント能力の重要性:
工場長や生産管理の責任者には、技術的な知見に加え、多様な専門性を持つ部門や担当者をまとめ上げ、一つの目標に向かって導くプロジェクトマネジメント能力が不可欠です。個別の技術課題だけでなく、予算、スケジュール、人材といった経営資源を最適に配分し、プロセス全体を管理する視点が求められます。
2. 全体最適を志向する組織文化の醸成:
設計から製造、出荷に至るまでのバリューチェーン全体を俯瞰できる人材の育成が重要です。部門間の垣根を越えたコミュニケーションを活性化させ、部分最適の追求から脱却し、最終的な製品価値の最大化という共通目標に向かう組織文化を育む必要があります。
3. 「生産」を「価値創造プロセス」として捉え直す:
日々の生産活動を、単なるモノづくりの作業ではなく、顧客に価値を届けるための創造的なプロセス、すなわち「プロダクション」として捉えることで、従業員の意識や仕事への向き合い方が変わる可能性があります。自社の仕事の本質的な価値を現場一人ひとりが理解し、誇りを持つことが、品質と生産性の向上に繋がるのです。


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