米国製造業の視点:サプライチェーン強靭化の鍵は『強制力ある貿易協定』にあり

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全米製造業者協会(NAM)は、重要鉱物をはじめとするサプライチェーンの安定化には、信頼できる同盟国との間で結ばれる「強制力のある貿易協定」が不可欠であると主張しています。これは、単なる貿易の自由化ではなく、経済安全保障を重視した新たな国際連携の枠組みを求める動きと言えます。

サプライチェーンの脆弱性という共通課題

米国の製造業団体である全米製造業者協会(NAM)が発表した見解によると、今日の製造業は、重要鉱物をはじめとする重要物資のサプライチェーン確保という大きな課題に直面しています。防衛装備品やエネルギー関連インフラ、半導体といった国家の根幹を支える製品の生産は、特定の国や地域からの資源・部材供給に大きく依存しており、この脆弱性が大きな経営リスクとして認識され始めています。これは、地政学的な緊張やパンデミックといった予期せぬ事態によって、いかにサプライチェーンが容易に寸断されうるかを我々が経験したことの裏返しでもあります。

日本の製造業においても、状況は全く同じです。レアアースや特定化学物質の調達、あるいは特定の電子部品の供給網など、サプライヤーが地理的に偏在しているケースは少なくありません。調達部門や生産管理部門の方々にとっては、日々の納期管理やコスト交渉に加え、こうしたマクロなリスクへの対応が重くのしかかっているのが現状ではないでしょうか。

解決策としての「強制力ある貿易協定」

NAMが解決策として強く提唱しているのが、「強制力のある(enforceable)貿易協定」の締結です。これは、かつての自由貿易協定(FTA)のように、単に関税の撤廃や市場アクセスの改善のみを目的とするものではありません。むしろ、協定に参加する国々が、公正な労働基準、環境保護基準、知的財産権の保護といった国際的なルールを遵守することを前提とした、信頼できるパートナーシップの構築を目指すものです。

「強制力」という言葉が示すように、この協定はルール違反に対する明確な是正措置や紛争解決メカニズムを持つことが想定されます。これにより、一部の国による不公正な補助金やダンピングといった行為を抑制し、公平な競争環境を確保する狙いがあります。つまり、安さだけを追求するのではなく、信頼性、持続可能性、そして法治主義といった価値を共有できる国々と安定した経済圏を築くことこそが、長期的なサプライチェーンの安定につながるという考え方です。これは、経済安全保障という概念が、経営戦略の根幹に据えられつつある現代の流れを的確に反映していると言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回のNAMの見解は、米国の政策動向を知る上で重要であると同時に、日本の製造業が今後取るべき戦略を考える上で、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。

1. サプライチェーンリスクの再評価と可視化
自社のサプライチェーンについて、ティア1(一次サプライヤー)だけでなく、ティア2、ティア3といった上流まで遡ってリスクを再評価することが急務です。特に、地政学的に不安定な地域や、特定の国への依存度が高い重要部材・原料については、その影響度を定量的に把握し、経営層で共有することが不可欠です。これは、事業継続計画(BCP)の実効性を高める上でも基本となります。

2. 調達戦略の複線化と「フレンド・ショアリング」
米国が同盟国や友好国との連携を深める「フレンド・ショアリング」の動きは、日本企業にとって新たな調達先の選択肢となり得ます。これまでコスト面で選択肢に上がらなかった国や地域も、安定供給という観点から見れば有力なパートナー候補になる可能性があります。政府間の経済連携の動きを注視し、自社の調達戦略に機動的に反映させていく視点が求められます。

3. 経済安全保障を経営のアジェンダに
サプライチェーンの強靭化は、もはや単なる調達部門の課題ではありません。米国の動きが示すように、これは国家レベルの安全保障と直結する経営マターです。経営層は、自社の製品や技術が経済安全保障上の重要物資に該当しないか、また、国際的な規制や貿易協定の変更が事業に与える影響は何かを常に把握し、先を見越した投資や戦略判断を行っていく必要があります。

グローバルな競争環境は、コストや品質だけでなく、安定性や信頼性といった新たな軸で再編されつつあります。この変化に適応し、強靭なサプライチェーンを構築することこそが、これからの製造業の持続的な成長の鍵を握っていると言えるでしょう。

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