鉄道大手アルストムの事例に学ぶ、3Dプリンティングによる保守部品サプライチェーンの革新

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フランスの鉄道車両大手アルストム社が、3Dプリンティングのプラットフォーム企業との提携を拡大しました。この動きは、単なる部品製造の効率化に留まらず、グローバルな保守部品サプライチェーンのあり方を根本から変える可能性を秘めています。本記事では、この事例を基に、日本の製造業が学ぶべき点を解説します。

グローバルな保守部品供給が抱える課題

フランスに本拠を置く鉄道車両の世界的メーカー、アルストム社は、世界中に数多くの車両を供給しています。製品のライフサイクルが数十年にも及ぶ鉄道車両では、長期間にわたる保守部品(スペアパーツ)の安定供給が事業の根幹を支えます。しかし、多種多様な部品、特に需要頻度の低い旧型車両の部品を、必要な時に必要な場所へ届けることは容易ではありません。物理的な倉庫で大量の在庫を保管し続けることは、コストと管理工数の両面で大きな負担となります。これは、産業機械や建設機械、プラント設備など、長期間のサポートが求められる製品を扱う日本の多くの製造業にとっても共通の課題と言えるでしょう。

「デジタル在庫」と「分散型製造」という解決策

こうした課題に対し、アルストム社はドイツのReplique(レプリーク)社とのパートナーシップを拡大するという選択をしました。Replique社は、自社で製造設備を持つのではなく、世界中に広がる品質基準を満たした3Dプリンティングのサービス事業者をネットワーク化したプラットフォームを提供しています。アルストム社は、このプラットフォームを活用することで、部品の設計データさえあれば、世界中の最適な場所で、最適な製造技術(樹脂、金属など)を用いて部品をオンデマンドで製造することが可能になります。

これは、物理的な在庫を持たず、設計データを「デジタル在庫(Digital Warehouse)」として保管し、必要に応じて製造するモデルです。さらに、需要地の近くで製造する「分散型製造」を実現することで、従来の集中生産・長距離輸送モデルからの脱却を図っています。

サプライチェーンにもたらされる具体的なメリット

この取り組みがもたらすメリットは多岐にわたります。まず、リードタイムの大幅な短縮が挙げられます。顧客に近い場所で製造するため、輸送にかかる時間とコストを劇的に削減できます。次に、在庫コストの削減です。物理的な在庫を持たないため、倉庫費用や在庫管理コスト、最終的な廃棄ロスが不要になります。また、金型が不要な3Dプリンティングは、一点からの少量生産を得意としており、需要の不確実な保守部品の供給に非常に適しています。

さらに重要なのが、サプライチェーンの強靭化(レジリエンス向上)です。特定の製造拠点や国に依存するリスクを分散し、地政学的な問題や自然災害、輸送網の混乱といった不測の事態が発生した際にも、代替の製造拠点を柔軟に確保できる体制を構築できます。

品質保証という重要な論点

分散型製造モデルを検討する上で、避けて通れないのが品質保証の問題です。異なる国の、異なる事業者が、異なる設備で製造した部品の品質を、いかにして均一に保つのか。これは製造業の根幹に関わる重要な論点です。Replique社のようなプラットフォームは、この課題に対して、材料の認定、製造プロセスの標準化、厳格な品質検査プロトコルの適用、そして製造履歴のトレーサビリティ確保といった仕組みを提供することで対応しています。日本の製造業が同様の取り組みを進める際には、こうした品質保証体制の構築が成功の鍵を握ることになるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回のアルストム社の事例は、日本の製造業、特にグローバルに事業を展開し、長期の部品供給責任を負う企業にとって、多くの示唆を与えてくれます。以下に要点を整理します。

1. 保守部品事業のサービスモデル変革
長年課題であった保守部品の在庫コストと、顧客への迅速な供給という二律背反のテーマに対し、「デジタル在庫」と「オンデマンド製造」は有効な解決策となり得ます。これは単なるコスト削減に留まらず、顧客満足度の向上を通じてサービス事業そのものの競争力を高める可能性があります。

2. サプライチェーンの強靭化と柔軟性の確保
予測不能なリスクが増大する現代において、サプライチェーンのあり方を見直すことは喫緊の経営課題です。分散型製造は、リスクヘッジの観点から非常に有効な選択肢の一つです。自社の重要部品について、代替生産の手段としてこうしたプラットフォームの活用を検討する価値は大きいでしょう。

3. 外部プラットフォーム活用の視点
3Dプリンティング技術の導入というと、自社で高価な設備を導入することばかりを考えがちです。しかし、本事例のように、外部の専門的なプラットフォームを活用することで、初期投資を抑えつつ、多種多様な材料・製造技術へのアクセスを迅速に確保するというアプローチも現実的になっています。

4. 品質保証体制の再構築
外部のネットワークを活用する上で、品質をいかに担保するかという仕組み作りが最も重要です。材料仕様や製造プロセス、検査基準などを明確に定義し、それを管理・徹底できるパートナーやプラットフォームを見極める必要があります。これは、自社の品質管理基準をグローバルに展開する上での試金石とも言えます。

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