米消費者団体、自動車の安全性と「修理する権利」で議会に提言 – 製造業のビジネスモデルへの影響は

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米国の有力な非営利消費者団体「コンシューマー・レポート」が、自動車の安全性や消費者の選択肢に関する政策提言を連邦議会に提出しました。この動きは、特に車両データへのアクセス権、いわゆる「修理する権利」を巡る議論を含んでおり、日本の自動車メーカーや部品サプライヤーの事業戦略にも影響を及ぼす可能性があります。

概要:米消費者団体が議会へ提出した書簡

米国の非営利消費者団体であるコンシューマー・レポート(Consumer Reports)は、かねてより製品の安全性や公正な市場競争を訴えてきました。この度、同団体が米下院のエネルギー・商業小委員会(商業・製造・貿易担当)に対し、自動車の安全性、消費者の選択の自由、そして価格の妥当性に関する見解をまとめた書簡を提出したことが明らかになりました。この提言は、今後の米国内における自動車関連の法規制の方向性を示唆するものとして注目されます。

提言の核心:「安全性」と「修理する権利」

書簡で強調されているのは、主に二つの大きなテーマです。一つは、衝突被害軽減ブレーキ(AEB)や先進運転支援システム(ADAS)といった安全技術の標準装備化の推進です。これは、人命を守るという観点から、多くの関係者が同意する方向性でしょう。しかし、製造者にとってはコスト増に繋がるため、価格への転嫁や、どのレベルの技術を標準とすべきかといった課題が伴います。

そしてもう一つ、日本の製造業にとって特に重要なのが、「消費者の選択」という名目で語られるデータアクセス権、すなわち「修理する権利(Right to Repair)」に関する議論です。現代の自動車は「走るコンピューター」とも言われ、車両の状態に関する膨大なデータを生成します。コンシューマー・レポートは、こうした診断データや修理に必要な情報へのアクセスを、自動車メーカーが独占するのではなく、独立した修理工場や車両の所有者自身にも公平に提供すべきだと主張しています。これは、消費者が修理業者を自由に選べるようにし、修理コストの抑制と市場の競争促進を目的としています。

製造業への潜在的な影響

もし、こうした「修理する権利」を保障する法制化が米国で進んだ場合、自動車メーカーおよび関連サプライヤーには多岐にわたる影響が考えられます。

第一に、アフターサービス事業のビジネスモデルが大きく変わる可能性があります。これまでメーカーは、正規ディーラー網と純正部品を組み合わせたサービスで収益を確保してきました。しかし、独立修理工場がメーカーと同等の情報にアクセスできるようになれば、サードパーティ製の部品やリビルド品の使用がさらに広がり、競争は激化するでしょう。

第二に、製品の設計思想にも影響が及びます。車両データの外部アクセスを前提とした、標準的でセキュアなインターフェースの設計が求められるようになるかもしれません。これは、サイバーセキュリティ対策の重要性を一層高めることにも繋がります。

第三に、品質管理の観点です。独立修理工場での整備品質にばらつきが生じた場合、それが原因で発生した不具合や事故の責任分界点が複雑になる可能性があります。メーカーとしては、自社のブランドイメージや製品の安全性をいかに維持していくかという、新たな課題に直面することになります。

日本の製造業への示唆

今回のコンシューマー・レポートによる提言は、米国内の議論ではありますが、グローバルに事業を展開する日本の製造業にとっても決して他人事ではありません。以下に、我々が考慮すべき点を整理します。

1. グローバルな規制動向の注視
「修理する権利」を巡る議論は、自動車に限らずエレクトロニクス製品などでも世界的な潮流となっています。特に欧米での法規制の動きは、やがて日本市場や他の輸出先にも波及する可能性があります。経営層や法務・渉外担当は、こうした国際的な規制の動向を常に把握し、自社への影響を分析しておく必要があります。

2. データ戦略の再構築
コネクテッドカーが普及する中で、車両データは新たな価値の源泉です。しかし、そのデータを囲い込む戦略には、規制による挑戦というリスクが伴います。今後は、データを独占するのではなく、むしろ安全な形で外部と連携し、新たなサービスや価値を共創していくような、よりオープンなデータ戦略の検討が求められるかもしれません。

3. 設計・品質保証の新たな視点
技術者や品質管理担当者は、将来的に第三者による整備が一般化することを前提とした設計や品質保証のあり方を考える必要があります。例えば、重要な保安部品のトレーサビリティをどう確保するか、あるいは不適切な修理が行われた場合に車両側でそれを検知・記録するような仕組みを導入するなど、より高度なリスク管理がテーマとなるでしょう。

今回の提言は、単なる消費者保護活動に留まらず、デジタル化が進む製造業のビジネスモデルそのものに変革を迫る可能性を秘めています。短期的な対応だけでなく、中長期的な視点での事業戦略の見直しが重要になると考えられます。

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