米国の飼料産業協会(AFIA)が公表した労働安全に関する最新の報告書は、業界全体での安全成績が着実に改善していることを示しています。本記事では、その具体的なデータと背景を読み解き、日本の製造業における安全管理のヒントを探ります。
米国の飼料製造業における安全成績の改善
米国飼料産業協会(AFIA)は、米国労働統計局(BLS)のデータを分析し、国内の動物用飼料製造施設における労働災害の発生状況を定期的に報告しています。2016年以降、多くの施設が労働安全衛生局(OSHA)への傷害・疾病データの電子提出を義務付けられており、これにより業界全体の安全レベルを客観的に把握することが可能になりました。
最新の報告によると、2021年の飼料製造業における労働災害の発生率は、前年に比べて改善が見られました。これは、業界を挙げた安全活動が着実に成果を上げていることを示唆しています。
主要な安全指標:TRIRとDART
米国の労働安全を評価する上で、主に2つの指標が用いられます。TRIR(Total Recordable Incident Rate)とDART(Days Away, Restricted or Transferred Rate)です。
TRIR(記録すべき災害の総度数率)は、従業員100人が1年間働いた場合に発生する、記録対象となる労働災害(死亡、休業、職務制限、医療措置など)の件数を示します。日本の「度数率」(100万延べ実労働時間あたりの死傷者数)と考え方は似ていますが、算出の基準が異なります。
DART(労働損失日数等を伴う災害度数率)は、TRIRの中でも特に重篤な、労働災害による休業、職務制限、配置転換を伴った災害の件数に絞った指標です。
2021年の飼料製造業における実績は以下の通りです。
- TRIR: 3.9件 (2020年の4.1件から改善)
- DART: 2.2件 (2020年の2.4件から改善し、過去5年間で最も低い数値)
特に、災害の重篤度合いをより反映するDARTが過去最低を記録したことは、現場における安全対策の質的な向上を示していると考えられます。
他業種との比較から見える立ち位置
一方で、これらの数値を他の業種と比較すると、飼料製造業の立ち位置がより明確になります。2021年の飼料製造業のTRIR(3.9件)は、全米の製造業平均である2.7件を依然として上回っています。これは、業界特有の危険作業(機械操作、粉塵、重量物取り扱いなど)が存在し、まだ改善の余地が大きいことを示唆しています。
しかし、より広い業種分類である「穀物・油糧種子製粉業」(NAICS 3112)のTRIR 4.1件や、「畜産業全体」(NAICS 11)の4.5件と比較すると、飼料製造業の数値は低く抑えられています。これは、業界団体などが主導する安全プログラムや各社の地道な努力が、一定の成果を上げていることの表れと言えるでしょう。
継続的な取り組みの重要性
報告書は、業界の安全成績が改善傾向にあることを示しつつも、決して満足すべきレベルではないと結論付けています。AFIAのような業界団体は、安全文化を醸成するための認証プログラム(Safe Feed/Safe Food)の提供や情報共有を通じて、会員企業の取り組みを支援しています。
データに基づいた客観的な評価と、それに基づく継続的な安全教育、訓練、そして適切な設備投資が、安全な職場環境を構築する上で不可欠であることは、どの国のどの業種にも共通する原則です。
日本の製造業への示唆
今回の米国の事例は、日本の製造業、特に中小規模の工場運営に携わる方々にとって、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。
1. データに基づいた安全管理の徹底
日々の安全パトロールやヒヤリハット活動はもちろん重要ですが、自社の安全レベルを客観的に評価するために、労働災害度数率や強度率といった指標を継続的に測定・分析することが不可欠です。目標設定や改善効果の測定において、こうしたデータは極めて有効なツールとなります。
2. 重篤災害への着目
全ての災害を減らす努力とともに、DART指標のように「休業」や「職務制限」につながる重篤な災害の撲滅に、より注力することも一つのアプローチです。災害の「件数」だけでなく、「質」にも着目することで、より効果的な対策につながる可能性があります。
3. 業界内でのベンチマーキング
自社の安全成績が、同業他社と比較してどのレベルにあるのかを把握することは、改善の動機付けになります。業界団体などが主導し、匿名性を担保した形でデータを収集・公開する仕組みは、業界全体の安全レベルを底上げする上で有益な取り組みと言えるでしょう。
4. 安全文化の醸成は終わりのない旅
安全成績の改善は一朝一夕には実現しません。今回のデータが示すように、地道な活動の積み重ねが数年単位で成果として現れます。経営層の強いリーダーシップのもと、全従業員が参加する安全文化の醸成に、根気強く取り組むことが何よりも重要です。


コメント