脱炭素化や資源制約への対応が経営課題となる中、サーキュラーエコノミーへの移行は製造業にとって避けて通れないテーマとなりつつあります。本稿では、学術的な研究で提示された「循環型製造の3つの類型」を基に、それぞれの特徴と日本の製造現場における実践のポイントを解説します。
はじめに:循環型製造とは
循環型製造(サーキュラー・マニュファクチャリング)とは、従来の「作って、使って、捨てる」という線形経済(リニアエコノミー)のモデルから脱却し、製品や資源を可能な限り長く、高い価値を保ったまま循環させることを目指す生産の考え方です。単なる廃棄物のリサイクルに留まらず、製品の設計段階から使用、回収、再生に至るまでのライフサイクル全体で資源のロスを最小化することを目的とします。これは、環境負荷の低減だけでなく、資源価格の変動リスクの抑制や、新たな事業機会の創出にも繋がる重要な経営戦略として認識されています。
類型1:製品・部品の価値維持と長寿命化
第一の類型は、既存の製品や部品の価値をできるだけ長く維持し、その寿命を延ばすことに焦点を当てたアプローチです。具体的には、修理、メンテナンス、アップグレード、そして再製造(リマニュファクチャリング)といった活動がこれに該当します。製品が故障しても廃棄するのではなく、修理や部品交換によって機能を回復させ、再び市場に供給することを目指します。
日本の製造業は、もともと高品質で耐久性の高い製品づくりを得意としてきました。この強みは、本類型と非常に親和性が高いと言えるでしょう。特に、建設機械や工作機械、事務機器などの高価格帯の製品においては、メーカー自身が主体となった再製造事業が既に展開されています。現場の視点では、使用済み製品の回収から分解、洗浄、検査、再組立に至るまでの工程管理や品質保証の仕組みを、新品の製造ラインとは別に構築する必要があります。また、どの部品を再利用し、どの部品を新品に交換するかの判断基準を明確にすることも重要です。
類型2:資源の閉ループ化と再利用
第二の類型は、製品が寿命を迎えた後に、その材料や資源を回収し、再び生産プロセスに戻す「閉ループ(クローズドループ)」を構築するアプローチです。一般的に知られるリサイクルがこの代表例です。使用済みの製品を回収・粉砕し、素材として再生利用することで、新たな天然資源の投入を抑制します。
このアプローチを高度化するには、単に素材を回収するだけでなく、その品質を維持・管理することが不可欠となります。例えば、特定の樹脂材料を純度高く回収し、再び同等の機能を持つ製品の原料として利用するには、効率的な回収スキームと高度な選別技術が求められます。また、サプライチェーン全体でのトレーサビリティ確保も課題となります。自社製品が市場でどのように使用され、いつ、どのような状態で回収されるのかを把握することは、安定した品質のリサイクル材を確保する上で重要な鍵となります。これは、静脈産業と呼ばれる廃棄物処理やリサイクル事業者との緊密な連携なくしては実現が難しいでしょう。
類型3:設計思想からの循環性組み込み(サーキュラー・デザイン)
第三の類型は、これまでの2つの類型を支える最も根源的なアプローチであり、製品の企画・設計段階から循環性を意図的に組み込む考え方です。「サーキュラー・デザイン」とも呼ばれます。具体的には、製品の分解や修理が容易な構造設計、リサイクルしやすい単一素材の採用、再生材を積極的に利用することを前提とした製品仕様などが挙げられます。
このアプローチは、製造工程や使用後の工程で後から対応するのではなく、製品のライフサイクル全体にわたる環境負荷やコストを、源流である設計段階で作り込むという点で極めて重要です。例えば、接着剤の使用を減らしてネジ止め構造にすれば分解・部品交換が容易になりますし、製品に使用する樹脂の種類を絞れば、使用後のリサイクル工程における選別の手間とコストを大幅に削減できます。開発・設計部門が、製造、サービス、リサイクルの各部門と密に連携し、製品ライフサイクル全体の視点を持つことが成功の条件となります。
日本の製造業への示唆
今回ご紹介した3つの類型は、それぞれが独立しているわけではなく、相互に深く関連し合っています。例えば、設計段階で分解しやすい構造(類型3)にしておくことで、修理や再製造(類型1)が容易になり、さらには純度の高い材料リサイクル(類型2)にも繋がります。
日本の製造業が循環型製造を推進するにあたり、以下の点が実務的な示唆となるでしょう。
1. 自社の強みを活かせる領域からの着手:
まずは、高品質・高耐久という日本のものづくりの強みを活かせる「類型1:価値維持と長寿命化」から取り組みを強化することが現実的かもしれません。既存の保守・メンテナンス事業を起点に、再製造へと事業領域を拡大する道筋が考えられます。
2. 部門横断での情報連携の強化:
特に「類型3:サーキュラー・デザイン」を実践するには、設計、生産技術、品質管理、調達、さらには営業やサービス部門までが一体となった取り組みが不可欠です。製品ライフサイクル全体の情報を共有し、意思決定に活かす仕組みづくりが求められます。
3. サプライチェーン全体での協業:
資源の回収や再利用は、一社単独では完結しません。素材メーカー、部品サプライヤー、物流業者、そして静脈産業のパートナーとの新たな協業関係を構築することが、循環の輪を完成させるための鍵となります。
循環型製造への転換は、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。しかし、これらの類型を参考に自社の製品や事業の特性を分析し、戦略的に取り組むことで、環境対応と経済合理性を両立させた、持続可能なものづくりを実現できるはずです。


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