アディティブ・マニュファクチャリング(AM)は、単なる試作技術から、実用部品を製造するための本格的な生産技術へと着実に進化を遂げています。今後の技術動向は、特定の用途(アプリケーション)を起点としたエコシステムの形成が中心となり、製造業のあり方を大きく変える可能性を秘めています。
試作から量産へ、AM技術の現在地
アディティブ・マニュファクチャリング(AM)、いわゆる3Dプリンティング技術は、かつてラピッドプロトタイピング(高速試作)の手段として広く認知されていました。しかし近年、金属材料の多様化や造形技術の向上、後処理工程の確立などを背景に、航空宇宙、医療、自動車といった分野で最終製品や治工具の製造に採用される事例が増えています。これは、AMが「何でも作れる魔法の箱」ではなく、特定の課題を解決するための実用的な「生産技術」として成熟してきたことを示しています。
トレンド1:アプリケーション主導のエコシステムへの進化
今後のAM技術を読み解く上で最も重要なキーワードは、「アプリケーション主導のエコシステム」です。これは、従来の「この装置・材料で何が作れるか」という発想から、「この製品・部品を作るためには、どのような材料、造形プロセス、後処理、品質保証が必要か」という、目的起点のアプローチへの転換を意味します。ひとつの企業がすべての技術を賄うのではなく、材料メーカー、装置メーカー、ソフトウェアベンダー、そしてユーザーである製造業が連携し、特定のアプリケーションに最適化されたソリューションを共創する動きが加速するでしょう。日本の製造業が得意としてきた「すり合わせ」の思想とも通じますが、よりオープンで柔軟なパートナーシップが求められるようになります。
トレンド2:材料とプロセスの深化と融合
AMの適用範囲を広げる上で、材料技術の進化は不可欠です。高強度な金属合金や複合材料、生体適合性材料など、特定の機能を持つ材料開発がさらに進むと予測されます。また、単一のAMプロセスに固執するのではなく、例えば、AMによる積層造形と従来の切削加工を組み合わせたハイブリッド製造のように、複数のプロセスを融合させることで、形状の自由度と高い寸法精度を両立させる取り組みも重要になります。造形後の熱処理や表面処理といった後処理工程の自動化・高度化も、量産適用における品質安定化とコスト削減の鍵となります。
トレンド3:デジタルスレッドによる品質保証の確立
AMによる量産が本格化するにつれ、品質保証の重要性はますます高まります。設計データから材料情報、造形中のプロセスパラメータ、完成品の検査結果まで、製品ライフサイクル全体の情報を一気通貫で紐づける「デジタルスレッド」の構築が不可欠です。これにより、高いトレーサビリティを確保し、万が一の不具合発生時にも迅速な原因究明が可能になります。日本の製造現場が長年培ってきた品質管理(QC)の知見を、こうしたデジタルデータと融合させ、プロセスの安定性を担保していく取り組みは、国際的な競争力を維持する上で極めて重要と言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
AM技術の進化は、日本の製造業にとって大きな機会であると同時に、従来のやり方を見直すきっかけともなります。以下に、実務への示唆を整理します。
1. 目的志向での技術評価:
自社の製品や生産プロセスが抱える課題(例:軽量化、リードタイム短縮、サプライチェーンの脆弱性)を明確にし、その解決策としてAMが有効かを判断する視点が重要です。「AMで何ができるか」ではなく、「自社の課題をAMでどう解決するか」を問い直す必要があります。
2. オープンな連携体制の構築:
自社単独での技術開発や情報収集には限界があります。材料や装置の専門家、大学や研究機関など、外部の知見を積極的に活用し、オープンなエコシステムに参画することが、効果的に技術を導入する近道となります。
3. 人材育成と設計思想の転換:
AMのポテンシャルを最大限に引き出すには、積層造形を前提とした設計(DFAM: Design for Additive Manufacturing)のスキルが不可欠です。従来の制約から解放された新しい発想ができる設計者や、材料から品質保証までを俯瞰できる技術者の育成が急務となります。
4. スモールスタートからの展開:
まずは治具や試作品、補修部品など、リスクが比較的小さく効果が見えやすい領域からAM活用を始めるのが現実的です。そこで得られた知見や成功体験を基に、徐々に重要部品や最終製品へと適用範囲を広げていくアプローチが望ましいでしょう。


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